AI用語の基礎知識

【第25回】「ヒューマン・イン・ザ・ループ」とは――

AIに丸投げせず、人が判断に加わり品質・安全を守る仕組み

ヒューマン・イン・ザ・ループ(HITL)は、AIに処理を丸投げせず、要所に人間の確認・承認プロセスを組み込む。事故の防止とAI精度の継続的な向上を両立させることができる(筆者がChatGPTで生成)

 生成AIの業務活用が進み、【第1回】で解説した「AIエージェント」や、【第23回】で取り上げた「エージェントワークフロー」のように、AIが仕事を自動的に進める仕組みが現実のものになりつつあります。

 しかし、「顧客へのメール送信」「契約内容の確認」「決済や発注処理」といった失敗が許されない業務まで、AIに完全に丸投げして大丈夫なのでしょうか。

 AIには【第2回】で紹介した「ハルシネーション」がありますし、【第19回】の「ガードレール」を用意しても、あらゆる誤りや想定外の動作を100%防げるとは限りません。

 「ヒューマン・イン・ザ・ループ(Human-in-the-Loop)」は、AIによる自動化のメリットを活かしながら、重要な場面では人間が判断に加わる仕組みです。頭文字を取って「HITL」とも呼ばれます。

AIの処理に「人間」を組み込む

 ヒューマン・イン・ザ・ループとは、AIを利用する一連の処理の中に、人間による確認、評価、承認などを組み込む考え方です。

 会社の仕事なら、「優秀な部下と上司」の関係にたとえると分かりやすいでしょう。

 何百ページもの資料を要約したり、定型的なメールの返信案を作ったりするのはAIが得意です。情報収集が非常に速い部下に、下書きを作ってもらうようなものですね。

 しかし、そのメールを実際に社外へ送信する前には、上司である人間が内容を確認します。「事実関係に間違いはないか」「失礼な表現はないか」を確認し、問題がなければ承認します。

 そして、何か問題が起きたときに責任を負うのも、結局は人間です(苦笑)。

まぁ、そういうモノですよね 笑(筆者がChatGPTで生成)

 すべての作業に人間を挟む必要はありません。問い合わせの自動分類など、間違えても影響の小さい処理なら自動化しやすいでしょう。一方、金銭の支払い、社外への送信、重要なデータの削除など、後戻りしにくい操作では、人間の承認を挟む設計が重要になります。

AIのミスを防ぐだけではない

 HITLは、安全装置としてだけでなく、AIシステムを改善するためにも使えます。たとえば、AIが作成した文章を人間が修正したり、複数の回答からより良いものを選んだりすれば、その記録をAIの評価や改善に役立てることができます。

 AI開発で使われる「人間のフィードバックによる強化学習(RLHF)」も、人間の評価をAIの改善に利用する代表的な例です。

 ただし、人間が修正したからといって、その場でAIモデルが自動的に賢くなるわけではありません。修正や評価の結果を記録し、後の学習やシステム改善に利用する仕組みが必要です。

「完全自動化」ではなく、人とAIの分担を考える

 生成AIが進化すると、「いつか人間の仕事をすべて自動化してしまうのでは」と考えがちです。しかし実際の業務では、完全自動化することそのものが目的ではありません。

 大量の情報を処理したり、下書きを作ったりする部分はAIに任せる。一方で、重要な判断や、取り返しのつかない操作の前では人間が確認する。どこまでをAIに任せ、どこから人間が責任を持つのか。その境界線を業務フローの中にあらかじめ設計しておくことが、HITLのポイントです。

 AIにすべてを任せるのでも、人間がすべて確認するのでもない。AIの速さと人間の判断を組み合わせる――「ヒューマン・イン・ザ・ループ」とは、そのための仕組みなのです。