AI用語の基礎知識

【第21回】「エッジAI」とは──“現場・最前線”で即座に動く人工知能

自動車の衝突回避などは、まさにエッジAIの出番。瞬時に判断し、行動を行なう

「AI用コンピューター」と聞くと、巨大なデータセンターのサーバー群を思い浮かべる人も多いでしょう。ChatGPTなどでは、手元のスマートフォンやPCからインターネット経由でクラウドへアクセスし、そこで計算された結果を受け取ります。

 しかし、AIは必ずしも遠くのデータセンターで動かす必要はありません。工場、自動車、ドローン、ロボットなど、データが生まれる「現場」に近い場所でAI処理を行なう。それが「エッジAI(Edge AI)」です。

 AI用語の基礎知識では、スマートフォンなどでも動かしやすい【第14回】「SLM」や、現実世界で動く【第17回】「フィジカルAI」を紹介しました。こうしたAIを現場で動かすうえでも、エッジAIは重要な技術になります。

【第14回】「SLM」とは――スマホの中のAIは”小さい”からこそ役に立つ
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2124574.html

「エッジAI」とは──現場で即断即決するAI

「エッジ(edge)」は「端」を意味する言葉です。ITでは、クラウドなどの中央側に対して、利用者やデータが生まれる場所に近い側を「エッジ」と呼びます。

 クラウドAIでは、カメラやセンサーから得たデータをネットワーク経由でデータセンターへ送り、処理結果を現場へ返します。

 一方、エッジAIでは、スマートフォンや車載機器、ロボットそのもの、あるいはその近くにあるコンピューターでAIを動かします。いちいち遠くのクラウドへ「どうしましょう?」と伺いを立てず、その場で判断できるわけです。

なぜ現場でAIを動かすのか

 エッジAIには、大きく3つのメリットがあります。

 1つ目は「低遅延」です。例えば自動車の衝突回避や工場ラインの異常検知では、クラウドとの通信を待つわずかな時間も問題になります。現場で処理すれば、通信による遅延を減らし、素早く反応できます。

 2つ目は「通信に頼らず動ける」ことです。トンネル、山間部、災害時など、ネットワークが不安定な場所でも、必要なAI処理を現場側で続けられます。

 3つ目は、データを外部へ送りすぎずに済むことです。例えば防犯カメラの映像をそのままクラウドへ送らず、その場で人数だけを数えて結果だけ送る、といった使い方ができます。プライバシー保護に役立つほか、通信量やクラウド側の処理コストを減らせる場合もあります。

エッジAIは、現場・最前線で、即座に動くAI

小さな現場には厳しい制約もある

 もちろん、エッジAIにも弱点があります。

 最大の問題は、クラウドほど豊富な計算資源を使えないことです。ロボットやドローン、スマートフォンには、搭載できるプロセッサーの大きさ、メモリー、消費電力、そして排熱に厳しい制約があります。

 そのため、巨大なAIモデルをそのまま載せるのではなく、小型化されたモデルを使ったり、AI処理に特化したNPUなどの専用プロセッサーを利用したりします。

 ここで効いてくるのが【第14回】で紹介したSLMです。小さくても賢いAIモデルと、省電力で高速なエッジ向け半導体。この両方の進化によって、手元や現場で活用できるAI処理が急速に増えています。

クラウドとエッジは「いいとこ取り」へ

 今後も、すべてのAI処理がエッジへ移るわけではありません。

 例えば、自動車やロボットの「今すぐ止まる」「障害物を避ける」といった反射的な処理はエッジAIで行ない、大量のデータを使った分析やAIモデルの学習などはクラウドに任せる。そんな役割分担が現実的です。

 【第17回】のフィジカルAIが、現実世界でAIを「動かす」技術だとすれば、エッジAIは、その頭脳を現場のすぐそばで働かせるための技術ともいえます。

【第17回】「フィジカルAI」とは──“考えるAI”がロボットを通じて現実世界で動き出す
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2129510.html

 AIは、データセンターの中だけにいる存在ではなくなっています。自動車、工場、ロボット、そして私たちの手元へ。エッジAIとは、AIがまさに“現場の最前線”へ出ていくための技術なのです。