インタビュー

「生成AIパスポート」を提供する生成AI活用普及協会に聞く

AI人材育成と“3つの壁”を越えるための戦略

一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)業務執行理事 兼 事務局長の小村亮氏

 企業や組織内で生成AIを使いこなし、活用していく上では、個々のユーザーがリスクも含めて正しく理解している必要がある。そのため、AIの導入を進める企業の間では、とりあえず「生成AIパスポート」のような資格試験を受けておくことが重要視されるようにもなってきている。

 今回はそんな「生成AIパスポート」を提供する一般社団法人生成AI活用普及協会(GUGA)業務執行理事 兼 事務局長の小村亮氏に同協会の活動内容を伺った。

――まず協会設立の背景について教えてください。

小村氏:2023年5月に社団法人として設立しました。2022年11月のChatGPT登場をきっかけに、個人の間ではAI活用が話題になっていましたが、組織においてはリスク懸念が強く出ていた時期でした。日本では労働人口減少などの社会課題がある中で、組織の理解を得ながらリスクを予防し、AI活用の後押しをするための業界団体の立ち位置が重要だと考えました。そのため、「生成AIパスポート」においても、一部の個人に資格を付与するだけでなく、全社員を対象にAIリテラシーを底上げする人材育成のアプローチを重視しています。

――「生成AIパスポート」は有名ですが、それ以外の主な活動内容について教えてください。

小村氏:生成AIインフラとして機能するように、さまざまな活動に取り組んでいますが、ここでは主に3つの活動をご紹介します。1つ目は、GUGA協議員(AI有識者)に対する企業の相談やコンペティション形式での提案受付を無料で支援する「有識者マッチング」です。

 2つ目は「事例収集」(データベース提供)で、プレスリリースなどから収集した約1700件のAI活用事例について、4名の有識者が目を通し、信頼に値するものだけを厳選したデータベースを無料で公開しています。

 そして3つ目が「GenAI HR Awards」です。2025年から開始した取り組みで、人とAIの協働を促すための「組織変革」や「人事評価」「人材育成」などに焦点を当てた企業表彰制度となっています。

――変化の激しいAI業界ですが、設立から現在までで活動方針に変化はありましたか?

小村氏:基本的には想定から大きく外れることなく進んでおり、大きな方針転換はありません。技術の発展や法律の動きに合わせて、「生成AIパスポート」では年1回のペースで試験のシラバス更新などの微調整を行なっています。当協会のミッションは「社会実装」であり、AIリテラシー向上のための人材育成は一つの機能であるという考えの下、実装を後押しするために必要な機能は随時追加していくというスタンスで活動しています。

――個人向けにはどのような支援を行なっていますか?

小村氏:現在β版として「生成AI人材認定カード」の提供を開始しています。例えば個人(フリーランス)が組織に支援を行なう際、「AIを使っている=危なそう」という偏見を持たれたり、組織が人材を採用する際にスキルの見極めが難しかったりする課題を解消するためです。学習履歴をオープンバッジを軸に可視化し、現段階では生成AIパスポート取得者に発行しています。今後は「マーケティング×AI」など幅広く他講座のバッジも取り扱うことで、個人の人材像をより明確に可視化していきたいと考えています。

――企業がAIを組織へ実装する際、どのような「壁」が存在するのでしょうか?

小村氏:大きく分けて3つの壁があると考えています。まず1つ目は、2024年~2025年初頭に注目を集めた「利用率の壁」です。これは、ツールを全社員向けに導入しても、自分の業務との相性が分からない、リスクへの漠然とした不安があるなどの理由で利用率が上がらないという課題で、人材育成をセットで行なわなかったことが主な要因です。

 2つ目は「コストの壁」です。全社展開へ移行するタイミングにおいて、トークンコストやAPI利用料といった費用に対し、本当に生産性が上がっているのかというマネージメントが問われるようになります。

 そして3つ目が「インセンティブの壁」です。業務が効率化され作業時間が半減しても、個人の仕事量が増えるだけで給料が上がらないという、経営層・株主と現場との間にある論理のギャップであり、これからさらに注目が高まる課題だと捉えています。

――その「インセンティブの壁」を乗り越えようとしている事例はありますか?

小村氏:成功の定義はさまざまですが、新しい設計に取り組む企業は出てきています。例えば、AI活用のレベルや状況を人事評価の1つの指標として確立させるアプローチをとる企業が出てきています。また、AIエージェントに業務を任せている状態に対して、「AI活用報酬」として賞与の派生のような形で還元する仕組みを設けている事例もあります。

 さらには、業務効率化で浮いた時間を活用し、給与据え置きで「週休3日制」を選択可能にするなど、働く時間の前提そのものを見直す制度を導入する企業も見受けられます。

――今後の展望や「AX(AIトランスフォーメーション)」について教えてください。

小村氏:AIをただ導入しただけではAXとは呼べず、言葉の定義や使い分けが重要になってきます。競争力の源泉となるのはデータであり、そのデータの源泉となるのは各ドメインのプロです。AIのプロ人材を育てるだけでなく、ドメインのプロを育成するためにあえてAIを使わせないなど、AIと非AIのバランスを取りながら組織全体のコンディションを整えるアプローチが今後重要になります。

 また、他団体とも連携・役割分担をしながら政策提言を行なったり、無関心層を可視化して「誰一人取り残されないAX」を実現するための啓発活動にもしっかりと取り組んでいきたいと考えています。

――お忙しい中、ありがとうございました。