AI用語の基礎知識
【第20回】「エンベディング」とは──言葉や文章を“意味の座標”に変える技術
2026年8月24日 13:09
【第15回】「トークンとは」では、AIが文章を処理するときの単位である「トークン」を解説しました。また、【第8回】「RAGとは」では、社内資料などから質問に関係する情報を検索し、AIに渡して回答させる仕組みを紹介しました。
【第15回】「トークン」とは――AIの料金や“読める長さ”を左右する“ことばの単位”
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2124577.html
【第8回】「RAG」とは――一般的な知識しか持たないAIを「自社専用の専門家」にする技術
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2112776.html
では、AIはどうやって「自動車」と「クルマ」が似た意味だと扱ったり、RAGで質問と意味の近い資料を探したりしているのでしょうか。
そこで使われる重要な技術のひとつが「エンベディング(Embedding)」です。
言葉や文章を「数値の列」に変える
エンベディングとは、言葉や文章、画像などの特徴を、コンピューターが計算できる「ベクトル」と呼ばれる数値の列に変換することです。
単に言葉へID番号を付けただけでは、「自動車」と「クルマ」が似た意味であることや、「犬」と「猫」が近い概念であることは分かりません。
そこでエンベディングでは、意味や特徴が似ているものほど近くなるように数値化します。
LLMの内部でも、入力されたトークンをベクトルに変換して処理しています。一方、RAGなどの検索では、専用のエンベディングモデルを使って、質問や文書のまとまりをベクトル化します。
どちらも「情報を数値で表現する」という考え方は共通していますが、LLM内部のトークン表現と、RAGで検索に使う文書のベクトルは、必ずしも同じものではありません。
例えるなら「意味の世界の住所」
エンベディングは、「意味の世界の住所」を決める技術だと考えると分かりやすいでしょう。
地図では、東京と横浜は近く、東京とロンドンは遠くなります。緯度・経度という座標があるため、その距離を数値で計算できます。
エンベディングも似ています。言葉や文章を数百〜数千次元のベクトルとして表現することが多く、モデルによって768次元、1536次元、3072次元など、さまざまな大きさがあります。そして、この多次元の空間では、意味や特徴が似た言葉や文章ほど近い位置になる傾向があります。
たとえば「犬」と「猫」は比較的近く、「犬」と「決算書」は遠い、といった具合です。
こうして座標のような数値に変換してしまえば、コンピューターはベクトル同士の距離や向きを計算して、「文字は違うが、内容は近そうだ」と判定できるようになります。
RAGや「意味で探す検索」を支える
この仕組みが特に活躍するのが、【第8回】で紹介したRAGや「セマンティック検索(意味検索)」です。
従来のキーワード検索では、基本的に入力された単語と一致する文字を探します。そのため、質問と文書で使われている言葉が違うと、目的の情報を見つけにくいことがあります。
エンベディングを使えば、たとえば「体調不良で会社を休みたい」という質問と、「病気休暇の申請手順」という社内文書を、それぞれベクトルに変換して比較できます。文字列は違っても意味が近いため、関連する資料として検索しやすくなるのです。
RAGでは、あらかじめ社内文書などを適当な大きさに分割してエンベディングし、ベクトルデータベースに登録しておきます。質問が来たら、その質問も同じ方法でベクトル化し、近い文書を探してLLMへ渡します。
また、モデルによっては文章と画像など、異なる種類のデータを関連づけられるエンベディングもあり、画像検索などにも利用されています。
エンベディングは、生成AIを使っていても直接目にする機会の少ない、いわば「裏方」の技術です。
しかし、言葉や文章をコンピューターが比較できる数値表現へ変えることで、「意味の近さ」で情報を探せるようになります。RAGをはじめとするAI検索では、どのエンベディングモデルを使うかが、検索精度や、最終的にAIへ渡される情報の質を左右する重要な要素なのです。





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