AI用語の基礎知識

【第16回】「バイブコーディング」とは――“こんなアプリが欲しい”をAIが形にする

AIとの会話を中心にソフトを作る手法「バイブコーディング」(筆者がGPT Image 2で生成)

言葉で頼み、AIにコードを書かせる

 スマートフォンやパソコンを使っていて、「こんなアプリがあったら便利なのに」と思ったことは誰しもあるでしょう。これまでは、自分でプログラミングを学ぶか、詳しい人や企業に頼まなければ、アイデアを形にするのは困難でした。

 ところが最近は、作りたいものを日本語などの自然な言葉でAIに伝え、プログラムを作らせることができます。たとえば「買い物リストを家族で共有できるアプリを作って」と頼み、不具合が出たらエラーをAIに「そのまま」渡して修正させます。人間は画面や動作を見ながら注文を重ね、AIがコードを書き換えていくわけです。

 このように、コードの中身を細かく追わず、AIとの会話を中心にソフトウェアを作る方法を「バイブコーディング」と呼びます。

「Vibe」は「雰囲気」、「感覚」

 バイブコーディング(Vibe Coding)という言葉は、AI研究者のアンドレイ・カルパシー氏が2025年2月にXへ投稿したことで広まりました。「Vibe」は、日本語では「雰囲気」や「感覚」といった意味です。

 カルパシー氏が示したのは、作りたいものを自然言語で伝え、AIが生成したコードを十分に読まずに採用し、エラーが出ればそのままAIへ渡して直させる、という大胆な方法でした。人間はコードより、動いた結果を見て次の指示を出します。いわば「こんな感じにしたいので、あとはよろしく」とAIに任せるスタイルです。

 ただし、AIにコードを書かせることすべてがバイブコーディングではありません。生成されたコードを人間が読み、テストし、内容を説明できるなら、一般には「AI支援開発」と考えた方がよいでしょう。狭い意味でのバイブコーディングは、コードを十分に把握しないまま、動作を頼りに進める点に特徴があります。

バイブコーディングに使われるツール

 代表例には、Replit Agent、Claude Code、OpenAIのCodexなどがあります。

 Replit Agentは、ブラウザ上で作りたいアプリやWebサイトを説明すると、コードを生成し、動作確認や公開までを支援します。Claude CodeやCodexは、プロジェクト内のファイルを読み、コードの修正、テストの実行、バグ修正などを進められるエージェント型の開発ツールです。

Agentは、ブラウザ上で完結し日本語で入力するだけで、パソコンやスマホ用のアプリを作成することができるツール。また、ここでスマホ上での動作をシミュレーションもできる

 ただし、これらを使うこと自体がバイブコーディングなのではありません。コードを確認しながら使えば、プロの開発者を助ける強力な道具にもなります。

「動いた」と「安全に使える」は別

 AIに頼んで、ひとまず動くアプリができたとします。しかし、そのままインターネットへ公開するのは危険です。

 AIはコードでも、もっともらしい間違いを生成することがあります(「【第2回】『ハルシネーション』とは」参照)。「特定の操作でデータが消える」、「パスワードや個人情報が外部から見える」、「他人のデータを操作できる」、「修正したことで別の機能が壊れる」といった不具合や弱点が入り込む可能性があります。

 しかも、作り手が仕組みを把握していなければ、原因を調べて直すことも、将来の変更に対応することも難しくなります。AIにテストやレビューを頼むことは有効ですが、AIが書いたコードをAIが確認したからといって、絶対に安全になるわけではありません。「画面が表示された」と「安全に使い続けられる」の間には、大きな隔たりがあります。

まずは失敗しても困らない用途から

 バイブコーディングの利点は、プログラミングの壁を下げ、個人の「欲しい」を形にできることです。プロの開発者にとっても、アイデアの試作や、一時的に使う小さな道具を素早く作る方法でもあります。

バイブコーディングの利点は、プログラミングの壁を下げ、個人の「欲しい」を形にできること(筆者がGPT Image 2で生成)

 自分だけで使う計算・整理ツール、短期間の実験、消えても困らないデータを使ったデモなどは比較的向いています。反対に、個人情報や決済を扱うもの、不特定多数に公開するもの、医療・金融・安全に関わるもの、長期間使い続けるものには、人間の専門家による設計、確認、テストが欠かせません。

 バイブコーディングによって、プログラミングは「コードを書ける人だけのもの」から、「作りたいものを言葉で説明できる人にも開かれたもの」へ変わり始めています。ただし、手軽になったのは作り始めるところまでです。公開し、安心して使い続ける責任までAIに丸投げできるわけではありません。まずは、失敗しても被害の小さい用途から試すのがよいでしょう。