インタビュー
「AI社員」が働く時代に、組織や従業員はどう変わるべきか
鍵を握るのは5つの要素からなる企業変革の方法論
2026年8月21日 11:00
単なるチャットだったAIが、長時間の作業を自律的にこなせるエージェントへと進化した。人間と同じように「働く」ことができるようになった今、次なるフェーズは「AI社員」の誕生だ。
しかしAIエージェントがあなたの「同僚」として働き始めたとき、新たな課題にぶつかることになる。本当にAIに仕事を任せてしまってもいいのか、どこまで任せるべきなのか、その管理や評価は人に対するものとは変えた方がいいのか。
企業のAI活用を支援しているマイクロソフトは、それに対し「フロンティア トランスフォーメーション」を提案している。組織や社員1人1人が意識するべきそのトランスフォーメーションの中身について、日本マイクロソフトの岡嵜氏に聞いた。
技術進化だけが理由ではない、チャットからエージェントの先へと向かうAIトレンド
――AIは業務効率を上げる「チャット」から、仕事を任せられる「AI社員」へと進化してきました。マイクロソフトとしてこの変化をどう捉えていますか。
岡嵜氏:たしかに最初はチャット型で、パートナーとして使うようなシンプルな段階がありました。そこからエージェントの形にシフトしてきたわけですが、人の代わりに自律的に作業するものが「エージェント」であるとした場合、人が指示して一定のタスク(仕事)をやってもらう、というステップがその初めの段階だったと思います。
そして次のステップとして、より自律的に、一定の役割をもって、その範囲であれば長時間の作業でも自ら考えて作業してくれるようになったのが今です。エージェントに任せられる範囲がどんどん広がってきたわけですね。
当然そうなった方がより便利ですし、可能性も広がります。ですがその前に、AIがどういう形でタスクをこなし、本当に安心・安全に実行できるのか、という点をクリアしていることが重要でした。
――最初の頃はハルシネーションのような明らかな誤りを含む回答が目立ったこともあり、信頼性の面で不安はたしかにありました。
岡嵜氏:それを踏まえたうえで、なぜ今エージェントが注目され始めているのかというと、ポイントとしては3つあると思っています。
1つは技術の進化ですね。マイクロソフトがMicrosoft Copilotをリリースしてから3年以上たっていますが、最初は1問1答の会話がせいぜいだったのが、今は1時間くらいかかる作業もかなりの精度で完結できるようになっています。それが可能になったのは、AIの技術進化が大きいでしょう。
2つ目は、そんな風に長時間の作業をしてもらうときに、自分の端末をエージェントが自由に触れたりするのはやはり怖さがあって、しかしそこを適切にコントロールして安心・安全に実行できるようになったことです。データを勝手に改ざんしたり、削除したり、勝手にシステムにログインして操作したりといった問題が残っていたら任せられないわけですから。
3つ目は、AIと一緒に働くということへの「慣れ」です。みなさんAIチャットでいろいろと経験を積んできて、問題がなさそうだから少しずつまとまった作業をお願いしていく、というような使い方をしてきたと思います。人間の方もステップを踏んでAIとの付き合い方を変えてきたことで、今現在のようなエージェント活用が進んできたのだと考えています。
――まだAIを活用しきれていないユーザーだと、段階を踏んでいかないと、いきなりエージェントが使えますよ、となってもなかなか理解も許容もしにくいところがありそうです。
岡嵜氏:AIでどんなことができるのか、本当に正しく作業してくれるのか、という確認を経ることは必要ですよね。複数のステップからなる作業を1つずつAIにお願いして、ここまでできるんだな、というのを把握したうえで全ての作業をエージェントにお願いする、というのであればイメージしやすいでしょう。
でも、そういう経験がないままいきなりエージェントに依頼するのは、自分の意図通りに動いているのかわからないのもあって踏み込めないですよね。やはりステップバイステップで進めた方がいいのかなと思います。
会社に新人が入ってきたときに、最初に仕事をどこまでお願いするか、というのと同じです。初めは資料作成1つとっても情報の集め方を丁寧に教える必要があるかもしれませんが、そのうち慣れてくればただ「準備しておいて」と言うだけで済むようになります。なので、AIに仕事をお願いするのはマネージャーやリーダーの仕事に近いなと。人もAIも、育てていくような感覚ですよね。
組織ナレッジとAIの連携、組織内のエージェント管理が不可欠に
――Microsoft Build 2026ではエージェント型AIを実現するOpenClawを基盤とした「Microsoft Scout」を発表しました。その背景と狙いについて教えてください。
岡嵜氏:マイクロソフトは、「地球上のすべての組織と個人がより多くのことを達成できるようにする」というミッションを掲げています。AIの時代においても、その考え方は変わりません。お客さまが実現したいことに応じて幅広い選択肢を提供し、生産性向上や業務変革を支援することが私たちの基本的な考え方です。
近年は、ユーザーを支援するだけでなく、自ら計画を立てて業務を遂行するエージェント型AIへの期待が急速に高まっています。そうした中で重要になるのが、自律的に動作するオートパイロット型の基盤です。OpenClawはその実現を支える有用な技術であり、私たちはそのオープンソースコミュニティにも積極的に貢献しています。
一方で、企業が自律型AIを本格的に活用するためには、単にエージェントが動作するだけでは十分ではありません。セキュリティ、ガバナンス、権限管理、監査性といった企業利用に求められる要件を満たす必要があります。そこで発表したのがMicrosoft Scoutです。
ScoutはOpenClawを基盤としながら、Windowsやマイクロソフトの管理基盤と連携し、ファイルアクセスやツール実行、ソフトウェア利用などを企業ポリシーに沿って制御できる環境を提供します。企業は業務データや既存システムと連携させながら、AIエージェントを適切に管理・運用できるようになります。
Copilotは当初、人とAIが協力して業務を進める協調型AIとしてスタートしました。しかし、お客さまの活用が進むにつれ、より自律的に業務を遂行するエージェントへのニーズが高まってきました。Microsoft Scoutは、そうしたニーズに応えながら、企業が安心してエージェント型AIを導入・展開するための基盤として位置付けています。
――各種AIサービスにエージェントも加わるということで、それらがどう協調し、どう役割分担していくようになるのでしょうか。改めて関連ソリューションを整理しつつ教えていただければ。
岡嵜氏:マイクロソフトが特に重要と考えているソリューションの1つは、まずCopilot。自律動作を実現するMicrosoft ScoutやCopilot CoworkもCopilotファミリーに含まれますが、これらは「UI for AI」、つまりAIのためのユーザーインターフェイスという位置付けで、AIを操作する起点となるものです。
ここでの我々としての差別化ポイントが「インテリジェンスとトラスト」です。AIがどれだけ賢くなっても、組織にあるナレッジをいかにAIと連携させていくかが重要だ、というのは多くの企業がみなさんおっしゃっています。
そこに向けて我々はMicrosoft IQという考え方のもと、Work IQ、Fabric IQ、Foundry IQ、Web IQといった組織ナレッジを集めるためのソリューションを、AIと連携させていくための重要基盤として提供しています。そして誰でも簡単にエージェントを作れる仕組みとして、Copilot StudioとMicrosoft Foundryも用意しています。
加えてエージェントの適切な管理ですね。企業の中にどんなエージェントが存在するのかを把握するだけでなく、どのエージェントが誰にどれぐらい使われているか(トークンをどれだけ消費しているのか)も確認できるようにする。エージェントを不正に使われれば攻撃などのリスクがあるので、「セキュアに管理する」というのも当然大切です。
――AIのセキュリティに対する懸念については、ここ最近関心が高まってきています。そこで抵抗感が増すと企業にとってはAI活用のハードルがまた上がってしまわないかという心配がありますが。
岡嵜氏:もしかしたらそれによってブレーキがかかってしまうのかな、と私自身も一瞬思ったのですが、お客さまとの会話のなかでは、「AI活用を止めることは考えていない」し、「逆に止めるのは別のリスクを生むのでは」とのことでした。
たとえばAIを全く使わない、企業システムはクローズにしてAIが触れないようにする、ということが本当に可能なのか。インターネット・クラウド時代がそうだったように、そもそもシステム連携させないという選択肢はないと思います。連携しなければビジネスのスピードが遅くなりますし、AIも活用しないとなれば他社との競争力が失われてしまう可能性があります。
我々が提唱している「人的資本」(Human Capital)と「トークン資本」(Token Capital)の観点においても、AIやエージェントが企業の競争力を生むリソースになってきたとき、それが揃っている企業とそうではない企業だと、明らかに前者の方がビジネスをスピーディーに実行できると思います。
そのためにも安心・安全をいかに担保するか、AIによって企業の競争力を保ちながらセキュリティをどう高めていくか、ということについての関心は、企業の間で本当に高くなってきていると感じますね。
――セキュリティについての取り組みも簡単に教えていただけますか。
岡嵜氏:セキュリティ強化のためのソリューションとしては、「MDASH(Microsoft Security Multi-model Agentic Scanning Harness)」を用意しています。これは単一モデルではなく、4つのモデルと100以上のエージェントを組み合わせることによって性能を高めているのが特徴です。
実際、CyberGymというセキュリティベンチマークでは、競合の単体モデルを上回るトップスコアを記録しています。しかも、セキュリティリスクを見つけて終わりではありません。継続的に発見する仕組み、見つけたら修正する仕組みを備えているのが我々のソリューションの強みです。
岡嵜氏:具体的には、当社はソースコードの管理ソリューションであるGitHubをもっていますので、GitHubと連携して定期的に脆弱性チェックを行ない、問題があれば修正するところまで一気通貫で行なえます。
それともう1つ、我々にはDefenderというソリューションもあります。みなさんのデバイス、サーバーを包括してセキュリティ保護を可能にするものですが、これとMDASHが連携して、デバイスやクラウドのセキュリティチェックを行なえます。
問題があった場合には具体的な対応方法をアドバイスするようにもなっており、我々のセキュリティ製品を導入していただいているお客さまとも迅速に連携して対処できます。このように、AIを活用した我々のサービスを安心して使えること、かつセキュリティを確実に守れることが我々のソリューションのアドバンテージとなっています。
AIファーストな企業になるために重要な5つの要素とは
――AIエージェントの活用に向けて、今のところ明らかになっている課題感はありますか。
岡嵜氏:日本を含め世界の多くのお客さまが今悩まれているのは、AI活用をいかに個人レベルから組織レベルに引き上げるか、というところですね。たとえば個人レベルだとおそらく多くの方がAIを使われていると思いますし、実際に業務の一部をサポートして生産性を上げていくこともできていると思います。
ただ、5人で10人分の仕事をしたり、ビジネスプロセスをもっとシンプルにして効率化したり、というような組織横断的なAI活用は、可能だとしても、そこにまで至っているお客さまはまだ多くありません。せいぜい組織内の狭い範囲に止まっている状況ですね。
もう1つは、リアルな効果にどうひもづけるか。AI活用で生産性はたしかに上がっているけれど、PL(損益計算書)を見ると何も変わらない、なんてことが少なくないんです。AIを導入したら売り上げがいきなり2倍になるか、というとそういうわけでもありませんので。
また、「AIで仕事が3割効率化した」ということで3割分の余剰時間が生まれたとしても、それを新しいことではなく既存の業務の範囲内で消化してしまいがちです。ビジネスのKPIにどうAIの効果を紐づけていくか、そこをちゃんと考えていくべき段階に来ているように思います。
――多くの企業が試行錯誤しているのだと思いますが、マイクロソフトではそれに対してどのような形で支援していますか。
岡嵜氏:私たちとしては技術面ではCopilotやMicrosoft IQなどのコアソリューションを通じてお客さまの変革を支援していくわけですが、お客さまとお話しする際に、次の「5つの要素」で整理しながら、AIを用いてどう企業の変革を推し進めるべきかを説明しています。
要素の1つ目は「ビジネスストラテジー」です。AIを活用して企業をトランスフォーメーションしていくのはトップダウンであることが重要で、組織横断的なAI適用の進め方や、AIを活用すべき範囲の優先度を素早く決断できるかが鍵になります。
2つ目は「テクニカルストラテジー」です。CopilotやMicrosoft IQ、エージェント管理の仕組みなど、AI基盤を部署ごとに入れると個別最適化になってしまうので、企業全体で最適化できる方法を考えていく必要があります。
ただ仕組みを新しくすればいいというわけではありません。適切な権限設定をして既存システムと連携する必要がありますし、AIに限らず正しく整備しようとすると1~2年かかってしまうので、並行して取り組んでいく必要があります。
3つ目は「AI活用の実践と定着化」です。やってみないと効果が出るかわからないのがAIでもありますので、まずはチャレンジして試行錯誤しながらチューニングしていく。「結局1人でやっていた方がよかった」という結論になる場合もあるかもしれませんが、それも1つの成果ですよね。
とはいえ、だらだらと長く検討し続けるのはナンセンスです。パッと試して効果を検証し、すぐに判断して次につなげていくような仕組みにすることが大事だと考えています。
4つ目は「Organization and Culture」です。CopilotのようなAIツールについて、社内の一部の人はよく使うけれど7~8割の人は使わない、というような場合もあります。そこをいかに広げ、いかに加速していける仕組みを作るか、評価方法の見直しも含めて考える必要があります。
たとえばどの部署でも共通で必要になるエージェントやスキルがあったとして、個人で使っているだけなのはもったいない。組織内で共有して、スピーディーに効果を高めていけるのであればそうすべきですよね。
最後は「AIガバナンス」です。誰がどんなAIツールを使っているのかわからない、いわゆるシャドーAIの状態になっていたり、会社としてAIツールの使用を推奨しているもののトークンを無駄に消費していたりすれば、適正に管理する必要があります。
ただ、トークンの消費については、コスト以上に効果が出ていれば問題ないわけで、それも含めて「AIガバナンス」として管理することが大切です。
こうした5つの要素からなる企業変革の方法論で企業を支援していますし、技術的な側面からサポートするカスタマーサクセスのチームも用意しています。また、最近ではお客さまの現場に入り込んでAIソリューションを実装していくFDE(Forward Deployed Engineer)の組織を立ち上げたばかりです。
――実際にマイクロソフトがAIエージェントの導入をサポートしている企業の事例にはどんなものがありますか。
岡嵜氏:多くの事例がありますが、りそなグループがCopilot Studioを採用し、各事業領域で最適なAIエージェントの開発を行なっている、というのは象徴的な事例かと思います。融資、住宅ローン、企業年金、iDeCoの4領域それぞれにフィットしたAIエージェントを個別に開発し、問い合わせ業務の効率化やルーチン業務の省力化などを実現しています。専任エンジニアによる伴走型支援によってAIエージェントのさらなる活用拡大も進めているところです。
人と同じように「マネージする力」が求められる
――最後になりますが、AIエージェントを使いこなしていくうえで、今後ユーザーに求められるのはどういう能力になりそうでしょうか。
岡嵜氏:AIにお願いしたらだいたいのことはうまくやってくれるようになってきて、コーディングさせれば望むようなアプリをすぐに作ってくれます。ただ、これまで我々がAIワークショップを何度も開催してきたなかでは、「作りたいものがわからない」という声が多くありました。
何をやりたいのか、何を作ればいいのか、何が課題なのか。そういったことを見極めてAIに指示し、結果「こうなれば成功、または失敗」という定義付けを人間の側で行なえなければなりません。そのように適切に指示・判断できなければAI活用につながらないわけで、いわば「伝える力」が大事になってくるのでは、と思います。
また、先ほども触れたように、AIに指示を出すのは人に指示を出すのと一緒だと思っています。指示の内容・方針が明確であるほどAIのアウトプット精度は高くなりますし、反対に指示が曖昧だと期待したものとは異なる結果になるでしょう。
したがって、「人をマネージする力」と「AIをマネージする力」は共通している、ということを意識すべきだと思います。AIエージェントをチームメンバーの1人として捉える「デジタル同僚(Digital Colleague)」という言葉も生まれていますが、エージェントと一緒に仕事していくなかではそのような「マネージする力」をもっているかどうか、というのも重要な視点です。
それともう1つ、インターネットの知識だけあってもモバイルの知識がないと答えられないことがあるのと同じで、AIに関する知識がある程度はないと思考の幅が狭まってしまいます。広く浅くでもAIの知識を身に付けておくことは、やはりAIを活用していくうえで欠かせないことではないでしょうか。
――これまで以上に多くの人が「マネジメント力」を鍛える必要が出てきそうですね。本日はありがとうございました。





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