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マイクロソフト岡嵜氏に聞くAIエージェント時代で企業がとるべき選択肢

変革に必要な考え方とソリューション

 AIの進化によってビジネス環境は様変わりしつつあり、一人ひとりのワークスタイルにも変革の波が押し寄せている。こうした状況下で、企業はAIとどう向き合うべきなのか。

 2026年6月に開催された開発者向け年次イベント「Microsoft Build 2026」では、そんな風にAIの本格導入を前に迷いのある企業、あるいはAI活用をさらに広げていこうと考えている企業にとって重要なメッセージが多数発信された。

 今回はその中から特に知っておくべきキーポイントとなる要素について、日本マイクロソフトでクラウド&AIソリューション事業本部長を務める岡嵜禎氏にインタビューし、解説していただいた。

企業の強み、ノウハウをAIエージェントにいかに伝えていくか

日本マイクロソフト 執行役員 常務 クラウド&AIソリューション事業本部長 岡嵜禎氏

――Microsoft Build 2026を振り返りつつ、直近の動きと今後のトレンドなど、ポイントとなるところを改めてご説明いただけますか。

岡嵜氏:まず大きなところが、米国本社のサティア・ナデラCEOが最近ブログでも話題にしていた「人的資本」(Human Capital)と「トークン資本」(Token Capital)です。

 今後企業がAIを推進していくうえでは、AIエージェントを活用してさまざまなトランスフォーメーションをしていくことが不可欠だとマイクロソフトとしては考えていますし、それを全力で支援していくことも掲げています。その中で重要なポイントが、経営資源としての「人的資本」と「トークン資本」なんです。

 まず人的資本は、今になって始まったことではなく以前からあるものなので「引き続き重要です」ということですね。AIがどんなに賢く、便利になったとしても、何をやるべきで、どう仕事を変えていくべきか、そしてAIをどのように活用していくか、というのは人が中心になって考えるべきです。人の役割の重要さは普遍的だ、というメッセージです。

 もう1つのトークン資本は、AIエージェントを企業の中で活用していく力と、活用できる形にするためのケーパビリティを備えていくこと。実際にAIエージェントを活用したときに、ビジネスにどう結果として紐づけるかが大事になる、ということです。

――人的資本とトークン資本に向けて、マイクロソフトでは具体的にどのような活動をしていますか。

岡嵜氏:AIをいかに使いこなすか、という点では、ご存じの通り当社では数年前から展開していて、活用範囲もこの3~4年で大きく広がってきている「Copilot」があります。

 もともとは一問一答のチャットから始まったAIですが、今は1時間、2時間かかるような作業を自律的に行ない、精度高く結果を出してくれます。ユーザーの思った通りに動いて、まとまったタスクをこなせるように進化してきているわけです。

 そうした使い方を支える自律型エージェントとして、Microsoft Build 2026では「Microsoft Scout」を発表しました。Scoutは、エージェンティックAIを実現するOpenClawをベースに開発されており、Microsoft 365と連携しながら、ユーザーに代わってローカル環境上で業務を実行できるのが特徴です。例えば、「このフォルダー内の資料を整理し、不要なファイルを分類する」「社内システムにアクセスして設定変更を行なう」といった、ユーザーのPC上で完結する必要がある作業を任せることができます。

 一方で、正式リリースした「Copilot Cowork」はクラウドホスト型の自律型エージェントです。例えば、「毎朝、顧客や案件の状況を確認してレポートを作成する」「重要なメールやTeamsメッセージを監視し、アクションが必要な項目を通知する」といった業務を、24時間365日継続的に実行できます。モバイルから依頼を行なうことも可能で、場所や時間に依存しない業務遂行を実現します。

 両者は提供形態こそ異なりますが、「まとまった業務をAIが自律的に計画し、実行する」という点で共通しています。Scoutがユーザーの手元で実施する業務を代行する"デジタル同僚"だとすれば、Coworkはクラウド上で休むことなく働き続ける"デジタルチームメイト"と言えるでしょう。用途に応じて使い分けることで、人とAIの新しい協働モデルを実現します。

――AIを全面的に採用した業務タスクの自動化には、その企業ならではの特色や社員の個性が反映できないのでは、と、なんとなく不安に感じる人もいるのではないかと思います。

岡嵜氏:「本当にAIに全てを委ねていいのか」というのは、たしかに心配になるところかもしれません。企業の皆さんからも、エージェントに一連の作業を任せてしまったときに、どのような形で他と差別化し、自分たちの価値をどのように確立していくか、というところで悩みがあると伺っています。

 そうした問題を解決するために、Microsoftでは「フロンティアエコシステム」を企業と一緒に作っていく、というメッセージも発表しました。そのフロンティアエコシステムの1要素として挙げられるのが「Microsoft IQプラットフォーム」です。

 AIエージェントをうまく活用するには、企業のもつリソース、強み、ノウハウなどをAIエージェントに対していかに伝えていくかがすごく重要になってきます。たとえば優秀な人材が新卒入社したとしても、いきなり現場で活躍できるかというと難しいことが多いでしょう。

 なぜなら仕事となると、会社にはどういう人がいて、誰が何をし、どんな仕事が動いていて、何を専門的に手がけているのか、など、そういった全体的な理解があって初めて活躍する土台ができると思うからです。

 AIもそれと同じです。知識があるだけでなく、その企業のこと、仕事のことを理解していないと適切には動けません。ですので、ユーザーが仕事のコンテキストを正しくAIに伝えていける仕組みが必要です。

 その役割を担うのがIQプラットフォームなのですが、これはMicrosoftがIQを全て作るというよりも、そのプラットフォームでお客さまのIQをAIで活用する仕組みを一緒に作っていきましょう、というコミュニケーションをさせてもらっているのが肝になるかと思います。

AIエージェントを導入しただけで終わりにしてはいけない

――自律的な実行が可能なAIエージェントを活用していくうえで企業が気を付けなければならないことはあるでしょうか。

岡嵜氏:AIエージェントを活用していくときには、エージェントを作って終わりではなく、それをいかに自分たちの企業にマッチした形にして、人とエージェントが共働しながらより価値ある成果を出していけるか、という点に意識を向けることが重要だと思っています。

 Microsoft Buildでは「ヒルクライミング・マシン」という言い方をしていましたけれども、人が山を登って成長していくように、人とエージェントが一緒に成長していけることが重要だと思っています。

 そう考えたときに、ユーザーは単に与えられたAIモデルを使うだけでは不十分です。やりたいことに対して最適なモデルを選択したり、そのモデルをより正しく動かしたり、という活動も必要です。

 そこでは、先ほどお話ししたIQをAIモデルに対していかに正しくインプットできるか、MCPやスキルなどAIを正しく動かすための定義をいかに作り、さらに継続的にメンテナンスしていけるかが企業としては大事なポイントになってくるでしょう。

 そのうえで、AIエージェントが本当に期待通り動いているのか評価できることも大切です。自分たちのインプットに対してAIエージェントの出す答えが適切なのか、そうでないのか。そこは企業のナレッジ、基準を元に判断すべきだと思います。

 あとはそれが最適なコストで実行されているのか。人がやった方が安かった、となったらAIエージェントを使う意味がないわけですよね。最適なコストでやりたいことが実現できているかも正しく評価できなければいけません。

 そうした活動のPDCAを回して、継続的に成長できるようにする。そういう仕組みを組織の中に作っていく必要があると我々は考えています。

――AIに業務の既存知識をインプットして生産性を向上できたとしても、それだけでは企業としての長期的な成長にはつながらないように思います。PDCAを回していく、というお話もありましたが、企業はその先を具体的にどう考えるべきでしょうか。

岡嵜氏:まさしくそこが大事なところなんですよね。今までに貯まった職人のナレッジをAIに入れて、みんな同じレベルでできるようになりました、で終わりにしてはいけません。そのうえで、人とAIエージェントが融合しながらもっと困難なことに取り組める、というような形にしていく必要があります。

 もしくは、人がやっていた既存の仕事をAIエージェントに任せて、人は仕事のやり方を変えて、それとは全く違った新しいことにチャレンジする、ということも考えられます。AIを活用することでもっと広い視点でビジネス自体を変えていくことが可能になってくるのではないでしょうか。

――AIエージェントに業務知識を入れていくのは、体系的なノウハウを身に付けているベテラン社員でなければ難しいかもしれません。そうしたときに、必要な人員はベテランだけになってしまって、業務知識のない新人社員は不要とされてしまう懸念もあるのでは?

岡嵜氏:たしかに同じビジネスモデルで、同じ仕事をやり続けるということであれば、その答えはイエスかもしれません。しかし、企業としてそこに留まっているだけでいいんですか、ということですよね。

 先ほどもお話ししたように、仕事のやり方を見直す、変えていくというときには、当然ながらベテランも経験したことのないような新しい仕事も発生すると思います。もしくは既存の業務でも、新人のようなフレッシュな頭脳で考えた方が今までにない発想が生まれやすい可能性もあります。イノベーションは異なる視点や考え方を融合することで生まれる、といったような見方もあるでしょう。

 そして、新しい領域に仕事の幅を広げていく際には、AIがあることで今まで数年かかっていたようなこともショートカットできる可能性があります。新しいことにスピーディに取り組めるという意味でも、AIの価値は高いのではと私は考えています。

企業のノウハウをどうAIにインストールしていく?

――自律型AIエージェントとしてCopilot Studioをリリースされたわけですが、これによって仕事の進め方はどう変わってくると考えていますか。

岡嵜氏:Copilot StudioもCopilot Coworkも、人が時間をかけていた作業を代わりに自律的にこなしてくれるものですから、最初に指示しておけば、人間の方は1時間後、2時間後の成果を確認するだけ、ということになります。特にCopilot Studioはローカルデータを扱えたり、PCの操作もできるなどより強力で、仕事の仕方を大きく変える可能性があります。

 また、Work IQによってメールやカレンダー、会議の記録など個々のユーザーの仕事内容も把握してくれていますから、私で言えばMicrosoft Buildのようなイベントで社外向けプレゼンの準備をしているときに必要な情報や資料を集めてくれますし、単純なチャットでも私の仕事や立場を前提としたうえで回答してくれますし、純粋に楽になりますよね。

――Work IQは、企業がAIを活用していくときに重要な仕組みになりそうです。モデル化されているデータは一般的な知識しかないので、企業側もノウハウをそこに向けてインプットしていくことが不可欠なように思います。

岡嵜氏:そうですね。AIモデルは極端な話、お金さえ払えば手に入るものですが、ナレッジは企業が長年蓄積してきた代えがたい資産ですので、それをWork IQで活用することは競合他社との差別化の鍵になるはずです。

 個々の企業ユーザーにおいても、特にエンタープライズではMicrosoftのソリューションを使って仕事をしている機会がすごく多い。そこに集まってくるリアルタイムの情報を共有しながらAIを活用できるのは大きいと思います。

――デスクの前でPCを日常的に使っている方々だけでなく、工場や医療などの現場にも今後はAI活用が一段と広がっていくと思います。そういった現場のWork IQはどのようにしてデータ化していくのでしょうか。

岡嵜氏:「データを貯める」というところと、「AIエージェントを活用していく」という2つの観点で見る必要があると思っています。まずデータを貯めるところに関しては、Microsoft IQでは新たに基盤を用意しなくても、既存の貯まっているデータを取り込めるのがミソです。

 Work IQは仕事のコンテキストを扱うものですが、それ以外に「Fabric IQ」というものもあって、こちらはビジネスのコンテキストを扱えます。現場のいろいろなデータソース、看護師さんが利用しているデータや工場のシステムのデータなど、それがSaaSにあってもオンプレミスで運用していても、Fabric IQで活用できます。人の手で物理的にデータを集める必要はありません。既存システムとFabric IQをつなげば、データを集めてAIと連携できます。

Microsoft IQの全体像(マイクロソフト提供)

 その後の現場でのAIエージェント活用に向けては、Microsoft Buildで「Project Solara」を発表しました。現場ではPCだけでなくスマホやタブレットなど専用のモバイルデバイスから利用したいというニーズもありますので、それをセキュアに実現するものとなっています。

セキュリティ、コストはどう考えるべきか

――AIエージェントを活用するようになってくると、情報漏洩などのセキュリティ対策もこれまでにない視点で考えていかなければならないように思います。

岡嵜氏:もちろんそうです。今までだと高度な知識と技術をもつハッカーしかできなかったことも、生成AIによってそうではない人が一瞬でできるようになってしまいました。防御する側も、AIエージェントを活用していかにスピーディーに対応していくかが重要になってきます。

 そうしたことから、Microsoftではセキュリティを強化するためにAIを活用していく「AI for Security」と、AIを活用するために必要なセキュリティ、ガバナンスを整備していく「Security for AI」を推進しています。

 具体的には「MDASH」をはじめとするセキュリティツール群を用意しています。AI生成コードの安全性を高めるもの、AIエージェントの不正なコード実行を防ぐもの、機密データを組織のITポリシーに従って処理するエージェント、といったものを利用できます。

 OpenClawもそうですが、AIが勝手に重要なデータを消してしまったり、社外秘の情報を外部に出してしまったり、といったことが発生したときに、AIがやったことだからといって免責されるものであはりません。そこは企業の責務ですので、リスクに対応できる仕組みはしっかり準備しておく必要があります。

 Microsoftは、「人とAIの共存」を1つのコンセプトとしています。AIがやっていけないことは、人もやってはいけない。逆に言うと、人がアクセスできるシステムはAIもアクセスできるべきです。したがって人もAIも同じように、大事なデータを守る、不正な振る舞いを制御する、といったことはきっちり融合して管理できることが必要です。

――自律的に動き続けるとなると、たとえばノートPCに人が触れていない状況でもずっと稼働していることになります。電力の消費のされ方、PCの使われ方が変わってくることで、OSもそれに合わせた進化が必要になったりはしないでしょうか。

岡嵜氏:たしかに人が触れていないときほどAIエージェントは働いている状態になるわけですよね。手元の端末だけでなく、サーバーサイドの電力も使っていて、人によっては100個の開発用AIエージェントを立ち上げて100倍のスピードと電力を使って開発する、みたいなこともあり得ると思います。

 最近トークンベースの課金が増えてきているのはそういう背景もあると考えられますが、我々としても、企業としても、そのような利用をいかに制御するかを考えていかなければなりません。少ないトークン、少ない電力、少ないインフラコストで高いパフォーマンスを出せる方がいいはずで、それをきちんと意識すべきではないかと。

 そのためにも、まずは可視化ですよね。誰がどれだけ使っているのか見えるような形にしなければいけません。多く使っているから絞る、というような管理方法ではなく、極論を言えば100億円分使っても1,000億円相当の成果を上げているなら問題ないわけで、コストパフォーマンスをしっかり計測して管理していくことは今後さらに重視されていくことになると思います。

 合わせて、AIをサーバー側のクラウドで動かすべきなのか、ローカルのエッジで動かした方がいいのか、という視点もあります。クラウドとエッジに分散することでコストを最適化できるパターンもありますし、クラウドAIも最新モデルではなく、1~2世代前のモデルを使うことも考えられます。最近は世代の古いモデルでも作業内容によっては十分な精度で、しかも低コストで実行してくれますので。

 また、我々Microsoftでは「Windows 365」のようなDesktop as a Serviceのソリューションも提供しています。クラウド上でWindows PCの仮想環境を実行できるサービスですが、手元の端末を閉じていても常時動作し続けられるので、場合によってはこうした仕組みでAIエージェントを活用するのも選択肢の1つではないかなと思います。

仕事の「成果」の測り方も見直す必要がある

――他にMicrosoft Build 2026で何か注目しておくべき動きなどはありましたか。

岡嵜氏:「個人のAIの使い方はだいぶ成熟してきた、でも組織としてAIが使えているかというとまだまだ」といった声をMicrosoft Buildではよく耳にしました。個人レベルの資料作成、情報活用のスピードはアップし、生産性はすごく上がっている。しかし、それが企業全体のパフォーマンスとして現われてきているかというとそうではありません。

 なので、次の段階を考えないといけない。1つは個人レベルではなく、企業全体の業務プロセスに本格的にAIを導入していく。それによって仕事のやり方を変えるとか、人員のシフトを再設計する、という考え方があると思います。

 それともう1つ、成果の測り方を変えることも必要です。たとえばソフトウェア開発のペースは早くなっている。でも、顧客とベンダーの契約は、従来の人月単価の考え方からあまり変わっていないように思います。

 今まで10人月かかっていたことが3人月でできれば、月あたりでの単価を上げて、スケジュールを短縮できた分は別の案件を回すようにする、という形にすることが自然ではないでしょうか。そのような仕事のやり方、評価方法の見直しが、企業全体、社会全体において重要になってきているように思います。

――本日はお忙しいところありがとうございました。