AI用語の基礎知識

【第22回】「ワールド基盤モデル」とは──AIが現実世界を学ぶ“頭の中の練習場”

「ワールド基盤モデル」で、ロボット等を「頭の中の箱庭」で鍛える事が期待されている

 「自動運転車は、実際の公道へ出る前に仮想空間で膨大な走行テストを繰り返している」──そんな話を聞いたことはないでしょうか。

 雨天や夜間、前の車が急ブレーキを踏む、突然人が飛び出してくる……。現実では危険すぎて簡単には試せない状況を仮想空間で再現し、AIを訓練するわけです。

 こうした技術をさらに発展させ、ロボットや自動運転などで注目されているのが「ワールド基盤モデル(World Foundation Model)」です。

 連載【第17回】では、現実世界で動くAI「フィジカルAI」を紹介しました。ワールド基盤モデルは、そうしたAIが「この状況で、こう動いたら次に何が起きるのか」を予測するための技術として期待されています。

【第17回】「フィジカルAI」とは──“考えるAI”がロボットを通じて現実世界で動き出す
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2129510.html

「世界モデル」と「ワールド基盤モデル」

 似た言葉に「世界モデル(World Model)」があります。

 世界モデルとは、AIが周囲の状態やその変化をモデル化し、「ある行動をしたら、その後どうなるか」を予測する仕組みを指す幅広い概念です。強化学習などの分野で以前から研究されてきました。

 それに対し近年、「基盤モデル」の考え方を取り入れ、大量の映像や3Dデータなどから、さまざまな場面に利用できる世界の表現や変化を学習する大規模モデルが登場しています。こうしたものが「ワールド基盤モデル」と呼ばれています。

「言葉の続き」ではなく「世界の続き」を予測する

 【第4回】で紹介したLLMは、大量の文章を学習し、入力された文章に続くトークンを予測しながら文章を生成します。

【第4回】LLM(大規模言語モデル)とは――生成AIを動かす“頭脳”
https://ai.watch.impress.co.jp/docs/serial/glossary/2105688.html

 これになぞらえるなら、ワールド基盤モデルが扱うのは「世界の続き」です。

 たとえば、車がこの速度で走っているときにハンドルを切ったらどうなるか。ロボットが箱を押したらどう動くか。物を手から離したらどうなるか──。映像やセンサー情報などをもとに、時間とともに世界がどう変化するかを予測・生成します。

 人間でいえば、「このコップを手から離したら落ちるだろう」と、実際に落とす前に頭の中で想像するようなものです。

 ただし、AIが物理法則を数式として覚えている、という意味ではありません。大量のデータから、現実世界で起きる変化のパターンを学んでいる、と考えた方が近いでしょう。

ロボットを「頭の中の箱庭」で鍛える

 この技術が特に期待されているのが、ロボットや自動運転です。

 高価なロボットを、何の準備もなく現実世界で何度も転ばせるわけにはいきません。自動運転技術を搭載した車で危険な事故寸前の状況を何度も再現することも困難です。

 そこで、現実に近い仮想世界を生成し、その中でAIに何度も試行錯誤させます。

 「この踏み出し方では転ぶ」。
 「この力で物をつかむと滑り落ちる」。
 「この状況ならブレーキをかける」。

ロボットにしてみたら、悪夢のような過酷さかも……

 こうした経験をシミュレーションの中で積ませてから、現実世界で動かすわけです。

 さらに、現実ではめったに遭遇しない「夕暮れの豪雨の中で、自転車が突然飛び出してくる」といった危険な状況を作り、訓練に利用できる可能性もあります。

「画面の中のAI」から現実世界へ

 現在、NVIDIAをはじめ、自動運転やロボティクスなどの分野で世界モデルやワールド基盤モデルの研究・開発が活発になっています。

 生成AIが文章や画像を作るだけなら、多少の失敗は生成し直せば済みます。しかし、ロボットや自動車を動かすAIでは、その一度の失敗が事故につながるかもしれません。

 だからこそ、現実で動く前に「頭の中の箱庭」で何度も試せることに大きな意味があります。

 【第17回】で紹介したフィジカルAIが現実世界で動く「身体」を持ったAIだとすれば、ワールド基盤モデルは、そのAIが「この先、世界がどう動くか」を予測するための頭の中の練習場……そんな技術だと考えると分かりやすいでしょう。