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東大松尾研発ベンチャーやDICなどが興味深い展示を行なう
「第1回フィジカルAI展」レポート
2026年7月7日 17:14
7月1日より7月3日までの3日間、東京ビッグサイトで、ものづくりに関する総合展示会「第38回ものづくりワールド 東京」が開催された。ものづくりワールドは、「設計・製造ソリューション展」や「機械要素技術展」、「工場設備・備品展」など複数の展示会で構成されており、今回は新たに「第1回フィジカルAI展」も開催された。フィジカルAIは、近年急速に進化を続けるAIの中でも、特に注目されている分野である。そこで本稿では、同展示会の中から、特に注目度が高かったブースや興味深い展示を紹介していく。
フィジカルAIとは「ロボット+最新AI」
まず、フィジカルAIとは何か、簡単に説明しておこう。フィジカルAIの“フィジカル”とは「物理」という意味である。フィジカルAIとは、最先端の知能を持つAIをロボットや自動運転車などの「物理的な身体」と統合し、現実世界で自律的に状況を判断して物理的な作業をこなす技術の総称である。ざっくりといえば、昔のアニメに出てくるロボットのように、ロボットが自ら周囲の状況を判断し、最適な行動を取れるようにする技術のことだ。もちろん、まだこのような万能ロボットは存在していないが、近年の急速なAIの発展により、ロボットの知能も急速に向上している。
工場では昔から産業用ロボットが導入されているが、従来の産業用ロボットは、あらかじめプログラミングされた作業しかできなかった。しかし、フィジカルAIの技術が進歩すれば、人間の作業者に指示を与えるように、自然言語で指示を与えるだけで臨機応変に対応が可能な産業用ロボットが実現できるのだ。
今回のフィジカルAI展でも、そうした未来を予感させるような展示がいくつも見られた。
東大松尾研発ベンチャーProx Industriesによる双腕ロボットデモに注目が集まる
フィジカルAI展のブースの中でも、特に人気が高かったのが、東大松尾研発のベンチャーProx Industriesのブースである。同社は、Unitreeの双腕ロボットやUniversal Robotsの協働ロボットを使って、それぞれ高度なタスクを実行させるデモを行なっていた。
「Unitree G1」を使った金属部品のキッティングタスクのデモでは、中央に置かれた2つの金属部品のうち1つを、まず右腕を使って掴んで持ち上げ、右側の箱に移動し、次に左腕を使って残りの1つの部品を掴んで持ち上げ、左側の箱に移動するというタスクを高い精度で行なっていた。Unitree G1は多指ハンドを備えた双腕ロボットだが、複雑な形状の金属部品を多指を上手く使って把持していた。なかなか見事なデモだが、NVIDIAのヒューマノイドロボット向けVLAモデル「GR00T N1.7」をベースに、Apple Vision Proを用いた実機のテレオペデータによってファインチューニングすることで実現したものとのことだ。
また、Universal Robotsの「UR3e」を使った多段階・精緻物体操作のデモも行なっており、注目が集まっていた。このデモでは、ボトルをつかんで段ボール箱の中のくぼみにはめ、双腕アームで箱の縁を折りたたんで、最後にフタを閉めるといった一連の作業を実現したものだ。全体のタスクを「ボトル投入」、「微細位置調整」、「段ボール梱包」の3つのサブタスクに分け、それぞれに適した技術を実装していることが特徴だ。動画では、すべての作業をこなしている様子がデモされていたが、時間がかかるため、ブースでは、最後の「段ボール梱包」のタスクのみ実演が行なわれていた。段ボール箱は柔らかく、形状も微妙に異なるが、VLAに強化学習を組み合わせたRL-VLAを利用することで、形状や位置の違いなども吸収できるようになったとのことだ。段ボール箱を閉じる動作はかなり高速で、素晴らしいデモであった。
機楽はロボカップで活躍するヒューマノイドロボットや自社開発のAI搬送ロボットをデモ
機楽は、同社が販売代理店となっているBooster Roboticsのヒューマノイドロボット「Booster K1」や同社が開発中のAI搬送ロボットに関する展示を行なっていた。
Booster K1は、自律ロボットによるサッカー大会「ロボカップ」ヒューマノイドリーグのKIDサイズ部門で優勝実績を持つロボットであり、同社のブースでもピンクのボールを追いかけるデモやカンフーの演武といったデモを行なっていた。
同社が開発中のAI搬送ロボットは、音声による指示を解釈し、その内容に従って動作するというものだ。ロボットの指示に対する応答も音声で行なわれるようになっている。AI搬送ロボットは、東京都中小企業振興公社の令和7年度「成長産業分野への事業転換に向けた製品開発支援事業助成金」に採択されており、将来的にはリフターと組み合わせることで、さまざまな場所で人の代わりに使えるロボットの実現を目指してるとのことだ。
低消費電力NPU「DX-M1」をアピールしていたDEEPX
最近のCPUは、AI処理用のNPUを統合した製品が増えてきているが、組込用途、いわゆるエッジAIでは、単体NPUのニーズも大きい。DEEPXのブースでは、同社が開発した低消費電力NPU「DX-M1」関連の展示が行なわれていた。
DX-M1は、25TOPSというAI性能を持ちながらモジュール全体で最大5Wという低い消費電力を実現していることが売りであり、M.2 2280またはM.2 2242フォームファクターに準拠したモジュールがリリースされている。他社のNPUとの比較では、ほぼ同性能のHailo-8に比べて、高負荷時の温度差が51.6℃にもなるという。実際にブースでは、動作状態のDX-M1とHailo-8を手で触れるようになっていた。筆者も触ってみたが、DX-M1はしばらく触っても問題ない温度だったのに対し、Hailo-8は一瞬触っただけでやけどしそうな温度であった。
NVIDIAのJetson Orinと比べて、公称演算性能は8倍も違うが、YOLOv5s実行時のパフォーマンスは、DX-M1が590fps、Jetson Orinが551fpsと逆転しているというデモも行なっていた。また、Raspberry Pi 5にDX-M1搭載モジュールを接続して、エッジAI処理を行なうデモやIntel N97とDX-M1 M.2を搭載した小型AI PC「DX-AIPlayer N97」のデモ、DX-M1 M.2搭載NASによる監視カメラの画像認識デモなども行なわれていた。
DX-M1の後継としては、AI性能が80TOPSと3倍以上に向上したDX-M2を開発中であり、DX-M2では、比較的規模の大きなLLMを動かすことも可能とのことだ。
リーダーフォロワーによって学習したロボットのデモを行なっていたPolaris.AI
Prox Industriesと同じく東大松尾研発のベンチャーであるPolaris.AIは、人間がリーダーフォロワーシステムによって作った教師データを元に学習を行なわせたモデルで、アームロボットによる物体の認識と把持、移動を行なうデモを行なっていた。学習と推論はDGX Sparkを利用して行なったとのことだ。
人間の触覚を増幅する魔法のような新素材「Tacthancer」や各種センサーを展示していたDIC
DICといえば、印刷用のインクや顔料、プラスチックなどを製造する大手化学メーカーとして知られているが、フィジカルAI展では、同社が持つ化学技術を活かしたユニークな製品を展示していた。
中でも特に筆者が面白いと思った展示が、同社が開発中の触覚増幅素材「Tacthancer」である。Tacthancerの実物は、企業秘密ということで写真の撮影は許可されなかったが、実際に触って確かめることができた。筆者が触ったTacthancerは厚さ4mm程度の複雑な内部構造を持つ樹脂でできたデバイスであり、いわゆるメタマテリアル的な素材だ。細かな鎖帷子のようなイメージで、Tacthancer自体も柔軟で、自由に変形する。このTacthancerを指の下に置いて、微小な凹凸や傷などがある物体の上を滑らせることで、その物体の微小な凹凸が拡大されて指に伝わる。まさに指先の触覚が大きく増幅されたような印象だ。Tacthancerなしで指で触ってもほとんどわからない微妙な傷や凹みなども、Tacthancerを指先と物体の間に挟むことで、はっきりとわかるようになる。厚さは変えることができるが、ある程度厚さがあったほうがより大きく触覚を増幅できるとのことだ。
実際に体験させてもらったが、まさしく魔法のような新素材だ。Tacthancerは手袋の指先などに付けて使うことが想定されているほか、既存のセンサーと組み合わせて、表面平滑度などをより高精度で計測するといった応用も考えられるとのことだ。Tacthancerは、今年後半からサンプル販売が開始されるとのことだが、さまざまな応用が考えられる新素材として期待したい。
DICが開発中の「SmaBrain」は、パーツトレイにさまざまなセンサーを搭載することで、単にパーツを運搬するだけでなく、運搬中にさまざまなデータを取得し、品質や信頼性、生産性の向上などの付加価値を創出するというものだ。こちらもなかなか面白いアイデアだ。
また、樹脂に直接金属を印刷できる技術を応用した把持力センサー「MoR-St」や導通センサー「MoR-C」のデモも興味深かった。MoR-Stでは、微妙な力の検出が可能であり、例えばポテトチップスのような力を入れすぎると割れてしまうようなものも、適切に把持することができる。MoR-Cは、ワークが金属製など電気を通すワークしか利用できないが、ワークの大きさなども検出できることが利点であり、太さが0.5mmだけ違う円柱を識別して分類するデモが行なわれていた。
首掛け型ウェアラブルデバイスの応用例を多数展示していたFairy Devices
Fairy Devicesは、同社が開発した首掛け型ウェアラブルデバイス「THINKLET」の応用例を多数展示していた。THINKLETにはカメラと5つのマイク、スピーカー、9軸モーションセンサーなどが搭載されている。SIMスロットも搭載されており、Wi-FiやBluetoothだけでなく、4G/LTE通信にも対応する。首掛け型にすることで画像が安定するほか、アレイマイクによって建設・保守現場やプラントなどの高騒音環境下でもクリアな集音を実現し、高い音声認識性能を達成できることが利点だ。
ダイキン工業と共同で、THINKLETで収集した作業者視点の動画をAIで分析し、熟練者の知見に基づいて作業者を支援するAIエージェントの開発を行なっているほか、アスラテックと共同でオープンソース・スマートパワードスーツの開発プロジェクトも始動している。
その他、AIカメラを搭載し、部屋にいる人の数や位置に応じて明るさを変えることができるAIシーリングライトや作業動画の収集管理や作業解析を行なう「LINKLET VIDEO」、動画マニュアルを簡単に作成できるソリューションのデモなども行なわれていた。
パレタイジングのデモやAI活用で精度を高めた近距離測距カメラを展示していた京セラ
京セラは、大型アームロボットによるパレタイジングのデモやDeep Learningを活用することで精度を高めた高精度近距離測距カメラの展示を行なっていた。
パレタイジングのデモを行なっていたアームロボットやカメラ自体は他社製のものだが、画像認識AIやアーム制御などのソフトウェア部分を京セラが開発しており、アームロボットメーカーを問わず対応できるとのことだ。
同社が開発した高精度近距離測距カメラは、2レンズ1センサ設計で小型化を実現し、Deep Learningステレオマッチングにより、0.25mmという高い精度を可能にしていることが売りだ。光沢があったりコントラストが低い対象物でも、精密な形状が取得可能であり、照明変動などにも強いという。
ロボットSIerのYATOMIエンジと東大発ベンチャーのAirionが共同出展
YATOMIエンジとAirionの共同出展ブースでは、車輪型双腕ロボットやアームロボットのデモを行なっていた。
YATOMIエンジは地域に根ざしたロボットSIerであり、Airionは製造業に特化した東京大学発AIベンチャーであり、VLM/VLAなどのフィジカルAIを開発している。それぞれ得意分野が異なり、両社がタッグを組むことで、フィジカルAIを活用したソリューションを短期間で開発できるという。
ブースでは、自然言語で指示するだけでタスクプランをローカルLLMが自動生成してロボットを動かすことができるデモ(ただし筆者が訪れた最終日はロボットの不調で実働デモは行なわれていなかった)や多指ハンドを備えたアームロボットのデモが行なわれていた。
独自の歯車やバックラッシのない回転テーブルを展示していたテクノダイナミックス
フィジカルAI展のブースの中でも、異彩を放っていたのが、テクノダイナミックスのブースだ。
テクノダイナミックスは、同社の独自技術によるバックラッシのない高精度回転テーブルや減速機構の展示を行なっていた。バックラッシとは、歯車やねじなど、かみ合って動く機械要素において、運動方向に意図して設けられた「遊び」や「隙間」のことだ。バックラッシはスムーズな回転や熱膨張による部品の破損や摩耗を防ぐために不可欠な構造だが、位置決め精度が落ちるという欠点があった。同社は、複数ローラー接触による予圧構造によりバックラッシがない高精度回転テーブルや減速機構を開発しており、多関節ロボットの軸に同社の高精度減速機構を組み込むことで、超高速位置決めが可能になるというデモを行なっていた。
また、Parallel Camの技術を歯車に応用した新しい歯車「CAMGEAR」の展示も行なっていた。CAMGEARは従来のインボリュート歯車に比べて、より滑らかな動きを実現し、静音性に優れ、摩擦も少ないことが利点だ。ブースではインボリュート歯車を使った装置とCAMGEARを使った装置を実際に手で回して比較できるようになっており、筆者も実際に手で回してみた。インボリュート歯車を使った装置は、手に力を込めないと回すことができず、騒音も聞こえたのに対し、CAMGEARを使った装置は、かなり軽い力で、ほとんど騒音も聞こえずに回せることに感動した。
自動搬送ロボット「カチャカ」シリーズをデモしていたPreferred Robotics
フィジカルAI展のブースではなく、隣で行なわれていた工場設備・備品展のブースだが、Preferred Roboticsは、同社が開発した自動搬送ロボット(AMR)「カチャカ」シリーズの展示とデモを行なっており、注目を集めていた。
カチャカはもともとコンシューマー向けに開発された製品だが、法人向けモデル「カチャカPro」が好調で、2025年のAMR国内市場台数シェアNo.1を達成したという。カチャカProは、搬送重量が30kgまでだが、工場などでは軽量搬送の需要も多く、小型で小回りが効き、安価なカチャカProが多くの現場で導入されている。
昨年末に上位モデルとして100kgまでの搬送が可能な「カチャカEvo」が登場。カチャカProは、専用の台車と組み合わせて使う設計だが、カチャカEvoは台車やテーブルなどの下に潜り込み、上部をリフトアップして対象物ごと持ち上げて移動する仕組みだ。
ソフトバンクロボティクスは自動搬送ロボットと蒸式調理ロボットをデモ
こちらもフィジカルAI展ではなく、隣で行なわれていた工場設備・備品展のブースだが、興味深い展示だったので紹介する。ソフトバンクロボティクスは、自動搬送ロボット「PUDU T300」と「PUDU T600」の展示やデモを行なっていた。PUDU T300の最大積載量は300kg、PUDU T600の最大積載量は600kgだが、PUDU T300にオプションの台車を接続することで、合計最大400kgまで牽引できるようになる。
また、蒸式調理ロボット「STEAMA」のデモも行なわれていた。STEAMAは、高圧・高温の水蒸気を用いた独自の「蒸式調理」により、冷凍のラーメンやうどんなどをわずか90秒でゆでたての状態にするロボットだ。実際に試食させてもらったが、麺の食感は確かにゆでたてのように滑らかで弾力があり、美味しかった。STEAMAは、すでに埼玉県のセブン-イレブンなどに導入されており、引き合いも増えているとのことだ。
フィジカルAIピッチも大盛況
フィジカルAI展の会場には、セミナースペースも設けられており、会場に出展していた会社によるフィジカルAIピッチが行なわれていた。ピッチは1社あたり20分だが、どのピッチも満員で立ち見が出るほどの盛況であり、フィジカルAIへの来場者の関心が高いことがよくわかった。第1回としては成功した展示会といえる。フィジカルAIは、今後社会を大きく変えていく可能性を持った技術であり、業種を問わず、その動向をフォローしておくべきだ。
また、次回は展示会の名称を「製造業×フィジカルAI展」に変更することもアナウンスされていた。フィジカルAIは、広い分野に応用できる技術だが、まずは最も有望な分野であり、実証実験も進んでいる製造業にフォーカスしようという意図であろう。


















































































































































