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「2026年はエージェントの年」、Qualcomm CEOが語る分散型AIの未来

QualcommのCEO クリスティアーノ・アモン氏

 QualcommのCEO クリスティアーノ・アモン氏は6月1日、COMPUTEX TAIPEI 2026の基調講演に登場し、AI時代における同社の役割について語った。

「2026年はエージェントの年」――スマホ中心の時代は終焉へ

 アモン氏は登壇直後、今回のプレゼンテーションが自社のプロモーションではないと語った。同氏がそう語る背景には、AIの進化のステージが次の次元へ突入したという確信があるようで、「2026年はエージェントの年(Year of Agents)となる」と宣言した。

「2026年はエージェントの年(Year of Agents)となる」と語るアモン氏

 これまでのAIは、人間が入力したプロンプトに対してテキストや画像を返すだけの人間の作業を拡張するツールに過ぎなかった。しかし今や、AIは自律的に判断し、行動を起こせる存在へと進化した。いわゆるエージェンティックAIの登場だ。

 同氏は、これに伴い、IT業界のエコシステムそのものが根本から覆ると予測する。これまではスマートフォンがデジタルライフの中心にあり、OSやアプリ、周辺デバイスがその周囲に存在した。しかし、今後はAIエージェントそのものがデジタル体験の中心となるという。

「スマホを含むすべてのデバイスは、エージェントを動かすためのエンドポイントに過ぎなくなる。エージェントは閉じ込められた状態ではなく、単一のエコシステムに縛られず、ユーザーとともに移動する。モバイル業界は静的ではない。常に変化している」

次世代アーキテクチャーの重要性

 エージェンティックAIが日常生活の主軸になるということは、ハードウェアのあり方もイチから見直さなければならないことを意味すると語るアモン氏は、「今日のデバイスは、そのような体験のために設計されたわけではない」と言い切る。

 従来型のデバイスは、すべてユーザー(人間)が開始する行動を前提に作られている。それ対して、自律的なエージェントは24時間常に稼働し、前後の文脈を維持しながら人間の介入なしに複数のタスクを処理し続ける。同氏によれば、ここで最大の問題となるのが電力と低レイテンシの制約だ。

 アモン氏は聴衆に「もしスマホのバッテリーを一日中もたせるのが大変なら、あなたとエージェントが同時にそれを操作するとき、一体何が起きるだろうか? これは驚くべきエンジニアリング上の課題だ」と問いかける。

 この課題を突破するため、同社は強力かつ省電力なCPU、高密度なNPU、GPUを密に統合した次世代アーキテクチャーの重要性を説いた。とくに、複数のシステムやデータセットにまたがるタスクの調整・運用(オーケストレーション)を行なうためのCPUの役割が、これまで以上に重要になるという。

クラウドとエッジの境界消失とトークンエコノミー

 さらにアモン氏は、これからのAIが「分散型AI(Distributed AI)」として進化するという見通しを示した。「もうクラウドとエッジを分けて話すのはやめよう。それらはすべて1つのシステムになるからだ」。

 エージェントが機械のスピードで自律的に多段階のタスクを処理するようになると、AIの通貨であるトークンの需要が爆発的に増加する。2026年現在、世界全体のトークン需要は10秒間で約317億トークンと推定されているが、2030年には同じ10秒間で1.27兆トークン(40倍)に達するという。総需要はもはや数え切れないほどの規模に膨れ上がる見込みだ。

 アモン氏は「トークンはAIの新しい通貨。抵抗は無駄だ」とユーモアを交えて語る。この莫大なトークン需要と処理コストを解決するのが、エッジ(デバイス)とクラウドを最適に組み合わせるインテリジェントなルーティング技術となる。同氏は、すべてをクラウドで処理する場合と比べ、デバイス上のローカル計算資源を活用する分散型AIを適用した場合、コーディングタスクで約140万トークン(コスト60%削減)、ウェブページ作成タスクでトークン需要を30%削減、コストを1/4に圧縮できることを示した。

クルマとロボティクスにおけるフィジカルAI

 AIの進化は画面の中だけに留まらない。現実世界へとはみ出すフィジカルAIにおいて、アモン氏はクルマとロボティクスの例を挙げた。

 クルマにおいては、コックピット内でドライバーの体験をパーソナライズするパーソナルAIと、カメラやレーダーを使って自律走行を担うフィジカルAIの2つの層が、1つの統合システムとして機能する。クルマの各種センサーが捉えた情報そのものが、エージェントにとっても貴重な入力とコンテキストになるという仕組みだ。

 また、ロボティクスにおいては「即時実行(バランスを保つなどの反射)」「アクション・グラウンディング」「推論」という3つの計算層からなる階層的システムが必須となる。Qualcommは、AMR(自律走行搬送ロボット)からヒューマノイド、ドローンまでを網羅する包括的なプラットフォームを構築しており、VinMotionやFigure AIといった先進企業との協働を進めている。アモン氏は「ロボットを適切な価格帯でスケールさせたいなら、消費者向け電子機器から高度な統合能力を持ち込む必要がある」と、自社の優位性を語った。

6G✕AIで何が起きる?

 通信技術を得意とするQualcommらしいビジョンとして語られたのが、次世代のワイヤレス通信システムの「6G」。アモン氏は6Gを「AI時代のために設計された、最初のワイヤレス世代」と位置づける。その柱は「接続性」「分散型コンピューティング」「センシング」の3つだ。

 スマートグラスなどが日常化する未来において、ユーザーが見ている視覚情報をリアルタイムに送信するためには高速なアップリンクが必須となる。アモン氏は「6Gは私たち全員を歩くカメラに変えるだろう」と語り、空間や機械、エージェント間で連続的なコンテキストが交換される世界を予言した。

 さらに最大の変化として紹介されたのが「センシング」だ。6Gネットワークは無線信号(RF信号)をフィジカルAIの入力データとして扱い、リアルタイムで数億の無線接続を三角測量化する。これにより、都市や国全体のリアルタイムなデジタルツインが構築可能になるという。

 ドローンの自律的な飛行管理や、道路上のすべての歩行者や車両の特定・注釈付けが通信インフラ側で実現するという。同氏は「これはすべて、デバイス上で動くエージェントのためのリアルタイムな文脈になる」と語り、通信とAIが完全に一体化する未来像を示した。

データセンター向けブランド「Dragonfly」発表

 講演の終盤、アモン氏はデータセンター向けの新製品ブランド「Dragonfly(ドラゴンフライ)」を発表した。すでにハイパースケーラーとの現場でのデプロイが進んでいるという。

Dragonfly

 同氏は「Dragonflyとともに、私たちのポートフォリオは、エージェントに接続する最小のウェアラブルから非常に高性能なデータセンターにいたるまで、コンピュートの連続体のあらゆる層を網羅する」と語る。

 超省電力な2ミリワット未満のシステムから、データセンター向けのキロワット級のシステムまで、あらゆる計算層で1ワットあたりの最高性能を提供することがQualcommの使命であるとし、「エージェントは未来にやってくるのではない。彼らはすでにここにいる。そして、コンピューティングの多くを変えつつある。このアップグレードサイクルは、業界がこれまで目撃した中で最大級のものになるだろう。共にこの新しい時代を定義するテクノロジーを築いていこう」と述べ、講演を締めくくった。