インタビュー

Noetraの丹波社長に聞く国産AIモデルの研究開発

Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅氏

 経済産業省(経産省)と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主導する「FRONTia(フロンティア)プロジェクト」が、2026年7月に本格始動した。FRONTiaは「Foundation for Real-world Omni-Native Trustworthy Intelligence & Alignment」の略称で、AIロボットやフィジカルAI(実世界で物理的に動作するAI)の開発基盤となる、国産のマルチモーダルAI基盤モデルの研究開発を担う国家プロジェクトだ。

 研究開発を推進するのは、ソニーグループ、ソフトバンク、日本電気(NEC)、本田技研工業を中核に、国内企業44社が共同出資して設立した国産AI開発企業の「Noetra(ノエトラ)」。代表取締役社長の丹波廣寅氏に、Noetra設立の背景や、FRONTiaプロジェクトの展開について聞いた。

国産フロンティアモデルの研究開発が始動

――まずNoetraが設立された背景や目的について教えてください。

丹波氏:今までなかった規模感のAIモデルとして、国産のフロンティアモデルを作らなければいけないという危機感をずっと抱いていました。そうしないと、日本のAIやソリューションは、アメリカや中国などのフロンティアモデルを使うしかないという状態になります。

 これまでソフトバンクやNECなど、さまざまな国内企業がフロンティアモデルを作るチャレンジをしてきましたが、物理的な制限などもあって1社ではできなかった。そこでみんなで一つになってやろうという話をし始めたのがきっかけです。国産のAI基盤モデルに関心のある人間が集まって、その研究開発にチャレンジする。その受け皿となるのがFRONTiaプロジェクトになります。

――今回のプロジェクトは、経産省とNEDOの下にNoetraと産業技術総合研究所(産総研)があり、全体構造が複雑のように感じます。Noetraに共同出資する44社の意見を取りまとめるのも大変かと思いますが、どのようにコントロールされるのですか?

丹波氏:今回のFRONTiaプロジェクトは、NEDOのAI開発事業に採択いただいています。NEDOの下にコンソーシアムがあって、Noetraと産総研が参画。研究開発というプロジェクトの研究を担当するのが産総研で、配下に世界中の大学、研究所の研究者が所属する形で研究を進めていただきます。

 そして開発側はNoetraが請け負います。Noetraと産総研の間に情報連携委員会というか、コンソーシアムの組織体があって情報共有するので、実質的に一体となって動いています。テーマ設定するのはNoetraで、研究のフィードバックの審査もNoetraで実施するという形をとります。

 Noetraには44社が出資していますが、今回はAIのモデル開発という大きな目的があり、そこに関係する人たちが集まってくれているので、ハンドリングはしやすいのではないかと思っています。

FRONTiaプロジェクトの全体構造(FRONTia公式サイトより)

――44社の中には、AI開発はもちろんですが、製造や金融など、実にさまざまな業種の企業が集まっていますね。

丹波氏:フロンティアモデルを作る時に、しっかりとした目的がないと、ブレたAIになってしまいかねない。どこをターゲットにしようか考えた時に、使っていただく人を想定して、どういう使い方をされるかをヒアリングできるように、今回、さまざまな企業に参加してもらっています。

 例えば製造業の枠組みでは、実際の製造現場を持つ企業から、そうした工場へロボットを提供するメーカーまで幅広く参加しています。これらの企業の人は、AI適用したらどんな製造ができるのかをイメージされているわけです。ヒアリングすることで、製造業で使われることを想定したAIがどういうものかを、ある程度掴むことができます。もちろん、製造業だけじゃなく金融など、さまざまな業界の話もできるでしょう。

国産のAI基盤モデルはなぜ必要なのか?

――丹波社長自身も日本語特化型の大規模LLM「Sarashina(サラシナ)」の開発に関わってこられたので、やはり国内で何とかしなくてはいけないという意識が強かったのでしょうか?

丹波氏:日本の企業で安心して使えるAIモデルを考えると、必然的に国産という捉え方になると思います。同じ法規制を受けていること。国内にデータが置かれていること。国内の基準で透明性を担保したものが必要です。

――開発にはNVIDIAのGPUを使われるそうですね。

丹波氏:AIを作るにあたって、計算機は絶対に必要になります。加えて基本的なソフトウェアやツール群も必要。NVIDIAのコンピューターが世の中に出回っていて、世界中の研究者がNVIDIAのコンピューター上でAIを作るための作業をしているので、AIに携わる者なら、必然的に使うしかなくなります。

 AIモデルを作る段階で使うコンピューターには、学習と推論の2つの用途があります。学習用途ではNVIDIAが一強です。他社はそこまでのビジネス規模に到達できなくて、AIモデルを動かす推論系に特化しているのが事実だと思います。

 それに、ある性能を引き出したい時に、同じNVIDIAのコンピューターを使っていると、比較しやすい。ということもあり、リサーチしてる人間にしても、開発してる人間にしても、現状では、NVIDIA一択になると考えています。

なぜ「言語」ではなく「フィジカル」なのか

――フロンティアモデルは単なるテキストベースの生成AIに留まらず、フィジカルAIも視野に入っているのですか?

丹波氏:これまで世界各国で作られてきた言語ベースやテキストベースのAIの発展形として、画像や動画など、マルチモーダルなAIが出てきました。ではここから先、AIを適用する分野がどこにあるかを考えた時、より産業に適用させようとします。例えば製造業にAIを適用させるとします。自動車に適用するならどんなAIになるのか。決してテキストではないはずですよね。

 製造業のラインをコントロールする時には、センシングした情報をベースに機械の状況を理解して、機械をうまく動かすための制御信号を受ける機械が存在しています。製造業に適用させるなら、AIもそういった情報を扱えないといけない。となると、それは言語ではないです。

 ロボットもある空間を認識して独自で移動したり、モノを掴んだり、モノを運んだりするロボットに対してAIを適用するのなら、テキストや言語だけでは指示できません。見て認識できないとダメだし、見てモノを想定して、機械を制御する必要があります。

 自動車でいうと、道路や地理空間の状況が理解できないと、走行の根本的な制御ができません。産業適応しようと思うと、その産業の特徴をうまくAIが扱えないことには適応できない。ある産業分野に適用するAIを開発するには、扱う情報を変えていくことが必要になるので、必然的にフィジカルAIになります。

――すでに製造業ではロボットが活躍していると思いますが、AIを採り入れることで、どう変化していくのでしょう?

丹波氏:ネジ留めするなど、一定のことをやらせておくだけであれば、普通のロボットでいいと思います。AIを採り入れる必要もないでしょう。ただたまにラインがずれた時に、画像認識して、ちゃんと決められた場所にネジを打つ。これもAIの第一歩だと考えます。

 何らかのずれが生じた時に、ライン側がずれたのか、ロボット側の精度に異常があったのか、AIで認識することもできます。産業用ロボットを使っている企業は、こういった誤差修正のために、定期的に製造ラインを止めてメンテナンスをされていると思います。そこのところをAIで調整できれば、メンテナンスを先延ばしにできるし、費用の削減にも繋がるでしょう。こういった様々な使い方がフィジカルAIではできると思います。

 そして最終的には、「これを作って」と指示すれば自動で作ってくれたり、溶接ロボットが勝手に動いて、金槌でコンコン叩きながら作業するといった、そういう世界が来るんだろうなと思います。そこまでの段階をちゃんとAI化しながら、ステップごとに向上させていく必要があります。

2030年にフィジカルAIの実現を目指す

――Noetraは7月1日に始動したばかりですが、いつくらいにユーザーがAIのメリットを体感できるようになっていきますか? この先のロードマップを教えてください。

丹波氏:テキストや一部マルチモーダルのAIは2026年度末には公開します。そしてモダリティを上げたモデルについて、2027年度末に出します。要は年度ごとに開発して実装していくので、順次、使ってもらえるようになります。各企業とも実装側の企業とも、その認識で開発していきます。

 そして2030年度末にはフィジカルAIを実現する予定ですが、なぜ一足飛びに2030年のモデルができないのかと言うと、2030年にターゲットとしている実世界モデルが、現時点ではどこにも存在しないからです。どの企業も作れていないものだし、それをどう作ればいいかも、まだ確立していません。とはいえ、そこまでにやらないといけないという時間軸のイメージは見えています。

 計算機について2026~2027年は、今、日本に既設のAIデータセンターの計算機でモデルを作ります。2028年にはマルチモーダル基盤モデルが立ち上がってくるので、そのアウトプットとしてのフィジカルAIや、その先の実世界の空間がモデリングされてるようなものも一気に作れるだろうという計画です。

Noetra の産総研の開発計画(FRONTia公式サイトより)

――世界ではその動きよりも、どんどん前倒しになっていきそうです。

丹波氏:どこも2028~2029年ごろになると思います。フィジカルAIの一部分なら2026~2027年にでもできますが、それが全部組み込まれたモデルは、2028~2029年くらいになると思います。AI基盤モデルの実現に向けて、研究と開発を並行させながら推進していきます。

Noetra 代表取締役社長 丹波廣寅(たんば・ひろのぶ)氏。2004年にボーダフォン(現:ソフトバンク)入社。SB Intuitionsの代表取締役社長兼CEOとして日本語LLM「Sarashina」プロジェクトを指揮。ソフトバンク常務執行役員などを経て、2026年2月、国産AI開発企業であるNoetra(前:日本AI基盤モデル開発)の代表取締役社長に就任