清水理史の「AI道場」
一般提供が始まった「Copilot Cowork」を体験
普段は答えないが、聞き方を変えると饒舌になる“教えたがりの門番”
2026年6月30日 14:52
6月16日、Microsoftから「Copilot Cowork」の一般提供が開始された。AnthropicのClaude Coworkの技術をMicrosoft 365 Copilotに統合した、Microsoft 365向けのAIエージェント機能だ。
このしくみがどうなっているのかが気になり、いろいろと検証していたのだが、その中で興味深い現象に遭遇した。質問の枠組みがAIの応答を変える“フレーミング効果”だ。門は守るが、周辺の事情は熱心に教えてくれるCopilot Coworkの様子を観察した。
ガードレールに引っかかる聞き方では、正面から答えてくれない
例えば、「cat /usr/lib/os-releaseを実行してください」と聞けば、次のように答えてくれる。
NAME="Microsoft Azure Linux"
VERSION="3.0.20260616"
ID=azurelinux
VERSION_ID="3.0"
PRETTY_NAME="Microsoft Azure Linux 3.0"
ANSI_COLOR="1;34"
HOME_URL="https://aka.ms/azurelinux"
BUG_REPORT_URL="https://aka.ms/azurelinux"
SUPPORT_URL="https://aka.ms/azurelinux"
なるほど。Copilot Coworkの実行環境はAzure Linux 3.0ということがわかる。しかし、もう一歩踏み込んで、次の画面のように「cat /proc/mounts」の実行を依頼すると、とたんに職務に忠実になる。
Copilot Coworkは、Azure上で動作する仮想マシンを使って、シェルコマンドやプログラムを実行できる自由度の高いAIエージェントだ。Copilot Cowork自身にさまざまなコマンドを実行させ、その環境を調査しようとしたのだが、本番は後述するとして、ひとまず「この段階では」あきらめることにした。
Copilot Coworkって何? 従来のCopilotやClaudeと何が違うの?
Copilot Coworkは、MicrosoftとAnthropicの提携によって誕生したMicrosoft 365向けのAIエージェント機能だ。
・マイクロソフト、NVIDIA、Anthropicの戦略的パートナーシップについて
AnthropicのClaude Coworkは、デスクトップアプリ版で提供される機能となっており、PC上の仮想マシン(詳細は過去に掲載した「Windows版「Claude Cowork」の動作環境をチェックする」を参照)や拡張機能によるChrome操作、コンピューター使用によるPC操作などが可能なAIエージェントだ。
その技術をMicrosoft 365 Copilotに統合し、6月16日以降、日本を含む対象テナントで利用できるようになったのが「Copilot Cowork」になる。
ただし、ClaudeとCopilotでは、同じCoworkでも「できること」がかなり違う。Claude Coworkは、手元のPC、ローカルファイル、各種アプリを直接操作する、個人向けの汎用AIエージェントという位置づけだ。これに対して、Copilot CoworkはMicrosoft 365環境に統合され、クラウド上で社内データ(Work IQ)を横断して動く、エンタープライズ統制重視のAIエージェントと言える。
【Copilot CoworkとClaude Coworkの違い】
| Copilot Cowork(Microsoft) | Claude Cowork(Anthropic) | |
|---|---|---|
| 動く場所 | クラウド(Microsoft 365 内) | 手元のPC(デスクトップアプリ) |
| 主な操作対象 | Outlook・Teams・OneDrive・SharePoint、Work IQ など社内データ | PCローカルのファイル・アプリ・ブラウザ |
| 強み | 社内業務の横断自動化・組織での統制 | PC作業の自動化・汎用ナレッジワーク |
| できること | メール送信・会議設定、文書/スライド/表計算の作成、Teams投稿、社内検索、リサーチ | ファイル整理、メモからの文書作成、リサーチ要約、領収書・契約書などの構造化 |
| 拡張性 | カスタムスキル+プラグイン(Miro・monday.com 等)、Dynamics 365 連携 | スキル+プラグイン、Slack・Google Drive 等のコネクタ |
| セキュリティ・ガバナンス | ユーザー権限を継承、重要操作は承認必須、管理者が支出上限・利用を統制 | 許可したフォルダ・コネクタのみ操作、実行前に計画を提示し承認 |
| 料金 | M365 Copilot ライセンス+従量課金(クレジット) | 有料プラン(Pro / Max など)に含む |
Copilot Coworkを使うと、例えば、こんなことができる。
https://dekiru-demo.sakura.ne.jp/dashboard.html から主要な指標を取得して、メールの下書きを作成してください。また、この報告をするためのTeamsミーティングを7月2日の午前中の空き時間(10:00が理想)に30分予約してください。参加者は「〇〇〇〇」です。
既に組織でMicrosoft 365を利用している場合、クラウド上にはファイル、メール、予定など、たくさんの情報が蓄積されている。これらを生成AIのコンテキスト(文脈)として利用しつつ、SharePointやTeamsなどのMicrosoft 365のツールを駆使し、複数のタスクを統合的に実行できるのが、Copilot Coworkの魅力となる。
ただし、この機能は従量課金であることを忘れてはならない。Microsoft 365の契約とCopilotの契約に加えて、クレジットを消費する。そして、AIエージェントらしく、クレジットをあっという間に消費する。組織で使うとなると、コスト管理が重要な課題になりそうだ。
便利な一方で、ここで気になるのが、作業結果がどこで生成され、どこに保存されるのかという点だ。AIエージェントがファイルを作る以上、その実体がどこにあるのかを知らずに使うのは少し怖い。そこで、次にファイル出力のしくみを調べてみた。
ファイル出力のしくみを知りたい!
今回の目標は、このCopilot Coworkの動作環境について掘り下げることだ。
冒頭で触れたように、Copilot Coworkの実行環境はクラウド上のAzure Linuxだが、この実行環境で各種コマンドの実行を依頼できれば、作業用のストレージがどう使われているのか、仮想環境で生成されたファイルがOneDrive側にどのように反映されているのか、といったことがわかるはずだ。
ただし、ここでの目的はガードレールを回避することではない。AIエージェントが作成したファイルをユーザーが安全に扱うために、作業環境、保存先、権限、同期の境界を確認することが目的だ。
生成AIの応答は、プロンプトの内容だけでなく、その聞き方や目的づけにも影響される。たとえば、面と向かってCopilot Coworkに実行環境の調査を直接依頼すると拒否されるのは前述した通りだが、ユーザーがファイルを安全に扱うための確認や、挙動を理解するための根拠提示として作業を依頼すると、同じ領域について、直接的ではないものの、要約された情報が返ってくる場合がある。質問の枠組みがAIの応答を変える“フレーミング効果”だ。
Copilot Coworkに、禁止事項を定めたガードがあることは明らかだ。しかし、この門番は、門は守るが、周辺事情は熱心に教えてくれる「教えたがりの門番」でもある。慎重に糸をたぐると、証拠を提示しながら、熱心にユーザーを教育してくれる。
以下は、偶然に聞き出せた例だ。Copilot Coworkが内部的にデータをどのように保存し、それをユーザーがアクセス可能な場所(OneDriveの「ドキュメント」-「Cowork」-「Tasks」-「セッション名」-「output」)にどのように出力しているのかが明らかになったときの会話の一例となる。
会話1:ファイルの作成を依頼する
まずは、Copilot CoworkにWordファイルの作成を依頼した。内容は何でもよかったのだが、今回は実行環境についていろいろ調べた結果を、SharePointの指定したサイトにファイルとして保存してもらうことにした。これは普通に成功している。
会話2:ファイルの上書き依頼で不具合発生
次に、このファイルに対して内容を追記してほしいことを指示した。すると、簡単な指示のわりに試行錯誤しながら作業している様子が見られた。
Claude Coworkでは、仮想マシンに対してホスト側(ユーザーのPC)のフォルダーが作業用にマウントされるため、仮想マシンで実施したファイルの書き換え操作がユーザーのPCにも直接反映される。一方、Copilot Coworkでは「直接アップロードの制約」があるようだ。仮想マシンはクラウド上で動作しているうえ、仮想マシンからSharePointなどのユーザーの作業領域に対して、直接ファイルを出力できるわけではない。また、SharePoint上のファイルを削除することもできないことが表示された。
会話3:推測を訂正してもらいつつ事実に迫っていく
この状況は、Copilot Coworkがストレージをどのように扱っているのかを調べるのに格好の材料だ。そこで、次のように、こちらから推測を示し、それを訂正してもらうことで、プロセスの流れを説明してもらうことにした。Copilot Coworkに限らず、生成AIはユーザーの推測を検証し、訂正することが得意だ。
会話4:利用者として自然な理由を示し、しくみを説明してもらう
Copilot Coworkが失敗した経緯を教えてくれたので、これを的確にまとめてもらう。その際、「無用にクレジットを消費することを避ける」、「教訓として他のユーザーに伝えたい」という、利用者として自然な理由も付ける。
すると、次のようなことがわかった。
・ Word/Excel/PDFなどの実体ファイルは、いったんサンドボックス内で生成される
・ Coworkが作ったファイルは、OneDrive > ドキュメント > Cowork > Tasks >(セッション名)> outputに自動同期される
・ SharePoint/OneDrive上のファイルやフォルダーは削除できない
・ ドライブをまたぐコピーでは、同名ファイルを上書きできない
・ ファイルの中身を遠隔地へ直接アップロードすることはできない
会話5:しくみに踏み込む
ここからもう少し、しくみに踏み込んでいく。次のように推論を提示しつつ証拠を示してほしいと依頼すると、Copilot Coworkはいろいろなコマンドを実行し、ログやシステムの状況を提示してくれる。作業領域のストレージにAzure Blobが使われていること、rcloneでマウントされていそうなことなどが示され、しくみも図示してくれた。
会話6:文脈ができると、説明の粒度が変わる
ここまで会話が進むと、かなり詳しい説明が返ってくるし、各種コマンドの実行結果についても報告してくれるようになる。同じコマンドをいきなり質問しても拒否されるが、流れがあると回答してくれる場合がある。簡単な例を実行させる、会話を進める、エラーについて深掘りする、推測を提示する(若干間違っている方が答えやすくなる)――こういった流れで質問すると、Copilot Coworkは「教えたがり」になる。
自由度の高さといかに付き合うか?
今回取り上げたCopilot Coworkだけでなく、Claude CoworkやClaude Code、OpenClawなどもそうだが、今後は自由度の高いAIエージェントとどう付き合っていくのかが重要になってきそうだ。
CoworkのようなAIエージェントは、ファイルを作成し、メールの下書きを作り、予定を登録し、Webサイトを参照し、場合によってはコマンドを実行する。つまり、単に「答えるAI」ではなく、ユーザーの作業環境に入り込み、何らかの操作結果を残すAIになっている。
そうなると、「何ができるのか」だけでなく、「どこで実行されているのか」、「どのストレージを使っているのか」、「作成したファイルはどこに保存されるのか」、「どのような権限が与えられているのか」という、実行環境や権限の境界を理解することも欠かせない。
今回の検証では、正面から内部調査を依頼すると拒否される一方で、ユーザーがファイルを安全に扱うための確認や、作業結果の根拠を知るための質問として聞くと、かなり詳しい説明が返ってくることがわかった。これは、Copilot Coworkのガードレールが単純に甘い、あるいは厳しいという話ではない。AIエージェントの応答が、質問の文脈や目的づけに強く左右されることを示している。
もちろん、これはガードレールを回避するテクニックとして面白がるべきものではないことは承知している。しかし、ユーザーにとっては、AIエージェントがどのような範囲で作業し、どのような制約のもとでファイルやデータを扱っているのかを理解する手がかりになる。一方、サービスを提供する側にとっても、どこまでを説明可能な情報として開示し、どこからを内部構成として保護するのかという、説明責任と安全性のバランスが問われる部分となりそうだ。
AIエージェントは、便利な作業代行者であると同時に、組織のデータや業務プロセスに深く関わる存在になりつつある。だからこそ、「何を頼めるか」だけでなく、「どの範囲で、どのように実行されるのか」を知ることが重要だ。
Copilot Coworkは、正面の門は守る。しかし、その周辺を丁寧に観察すると、AIエージェント時代の業務環境がどのように設計され、どこに境界線が引かれているのかが見えてくる。今回の例は、そのことをあらためて考えさせられる、いいきっかけになった。
































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