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NRI、社会・産業の基盤を構築する「社会レジリエンスAI」構想を提言 脱暗黙知!

 野村総合研究所(以下、NRI)は、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻 田中謙司研究室(以下、東大田中研究室)の実社会のデータを起点に課題解決の方法を導出する学術的知見を基に、データ分析から社会・産業の構造変化を捉え、持続可能な社会・産業基盤の構築を目指すAI活用の新構想「社会レジリエンスAI」を取りまとめた。

 社会レジリエンスAIは、社会や産業に蓄積された熟練者の知見や業務データをインプットに、変化の検知から要因分析、対策の提案までを自律的にAIエージェントが行ない、予見・対応の精度を継続的に高めていく仕組みとなる。

構造変化に即応できない従来型の業務・意思決定モデル

 社会・産業のあらゆる領域で、環境変化のスピードと複雑性が増しており、日々膨大なデータが蓄積されるようになっても、データの変化から次に起こる事象の兆候を的確に捉え、業務やアクションに結びつけるプロセスは、依然として熟練者の経験や勘といった「暗黙知」に大きく依存している。

 また、産業インフラの保全領域などに代表されるように、人材の高齢化や技術継承の断絶により、従来の「熟練者による対応」を前提とした運用が限界を迎えつつある。

 デジタル化やAI導入が進む一方で、その活用が個別の異常検知や分析にとどまり、検知から原因究明、対策立案、その効果の検証までのプロセスが分断されているケースが多く、多くの産業では、本来の業務変革に至っていない。

「社会レジリエンスAI」構想の特長と解決の方向性

 社会レジリエンスAIは、課題を複雑な社会システムの変化を数理モデルによって検知し、要因を分析し、事象に対する最適な対処法を導き、対策の実行を促す。事象を予測する従来型のAIでは、主に過去のデータから統計的にパターンを認識する手法が用いられてきた。

 そうした「過去に似た事象が起きたから、次も起きるだろう」という経験則的な予測だけでなく、東大田中研究室の学術的知見に基づき、データが乏しい状況や過去に経験のない事象に対しても、数理モデルによって変化の検知と高度な要因分析を目指す。

 また、従来型の予測AIの多くは、既に数値化・構造化されたデータを前提とするのに対し、AIエージェントを活用することで、熟練者の経験や勘といった「データとしては存在しないが、当たり前に使われている暗黙知」を形式知へ変換し、AIの推論基盤に組み込むという。

 この高度な推論を複雑な業務プロセスに組み込み、対策実行につなげるために、日本企業を熟知し、業務の再設計から、システム構築・運用までを一気通貫で担ってきたNRIのノウハウが発揮されるとしている。

 このように、東大田中研究室とNRIの強みを掛け合わせることで、分析だけでなく、事象に対する最適な対処法を導き出し、自律的な対策の実行までを促す、本番業務で活用できる品質のAIを実現を目指している。

 具体的には、以下の3つのプロセスを一気通貫で実行するAIエージェント群と、それらを統括するオーケストレーションAIが、熟練者の思考プロセスを再現する。

1. 変化検知(モニタリング・モデル化)

 多様なデータソースからミクロレベルの変調や構造変化の兆候を捉える。

2. 要因分析(根本原因の特定・知見の蓄積)

 複合的な要因を解きほぐし、蓄積された知見と照合しながら根本原因を特定する。

3. 対策提案(アクションプラン探索・提示)

 状況に応じた最適な対処法や施策を提示し、実行へとつなげる。

 また、実行結果をフィードバックとして取り込むことで、予見・対応の精度を継続的に高め、ミクロのデータ分析から構造変化を捉え、マクロの業務判断をダイナミックに進化させる、このフィードバックループ(成果の循環的な仕組み)こそが、「社会レジリエンスAI」の生み出す本質的な効用としている。

 これにより、さまざまな意思決定を、従来の「リアクティブ(事後対応)型」から、予測に基づく「プロアクティブ(予見)型」へと変革する。

今後の展開

 社会レジリエンスAIの最初のユースケースは、製造・エネルギー・交通といった、社会・産業インフラの保全領域への適用を想定。センサーデータ等のミクロデータから設備の変調を捉え、熟練者の暗黙知を学習したAIが要因分析と対策提案をすることで、人材不足や技術の属人化といった構造的課題の解決に取り組む。将来的には、ユースケースを増やし、適用する業種・業務を拡大していく予定という。

 NRIは、今後の展開について以下のようにコメントしている。

「東大田中研究室と、互いの知見に基づき、『社会レジリエンスAI』の実装を通して、人手や経験に過度に依存した意思決定構造を変革し、持続可能で強靭(レジリエント)な社会・産業の実現を目指していきます」