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NVIDIAジェンスン・フアンCEOが語るAIの新たな夜明け

NVIDIAの創業者/CEOのジェンスン・フアン氏

 NVIDIAの創業者/CEOのジェンスン・フアン氏は3月17日、米国サンノゼで開催されいてる「GTC 2026」のなかで報道関係者向けのQ&Aセッションに登場し、イベントの中心的なテーマとなっているAIに関連するさまざまな質問に答えた。同氏の口から語られたのは、AI産業がこれから迎える劇的な変化と、圧倒的な自信に裏打ちされたNVIDIAの未来図だった。

AIの主戦場は「学習」から「推論」へ

 セッションの前半、メディアから「NVIDIAは、AIのボトルネックが学習から推論(AIが回答や画像を生成する作業)へとシフトしたことに気づくのが遅れたのではないか?」という質問が飛んだ。これに対し、フアン氏は自信たっぷりに「まず第一に、あなたは今、推論の王様を見ているんですよ。私が言ったのではありません。誰かが、私を推論の王様だと宣言したんです」と返した。

 これまでAIの開発は、膨大なデータを読み込ませて賢くする「学習」(トレーニング)が中心だった。しかし現在は、賢くなったAIを実際に使って回答を生み出す「推論」の段階に突入している。

 フアン氏によれば、NVIDIAはすでに2025年に向けて推論分野へ莫大なリソースを注ぐ決定をしており、最先端のNVL72などによって、AIがデータを出力する際のコストを1/50にまで引き下げることに成功したという。

「現在生成されているトークン(AIが処理・生成する言葉やデータの最小単位)の中で、私たちのシステムが生み出すものが最も低コストで、最も高速だ」(フアン氏)。

誰もが「自分専用のAIエージェント」を持つ時代

 AIの進化のメインステージは、単なるチャットボットから、自律的に思考してタスクをこなすエージェントへと移行してきている。NVIDIAは、このエージェントを企業や個人が簡単に導入できるようにするプラットフォームも開発している。

 フアン氏はこの動きを“歴史的な転換点”だと熱弁する。「今や1行のコードで、1回のインストールで、誰もがAIエージェントを手に入れることができる。これは革命的だ。Linuxが普及するのには30年かかったが、このエージェントシステムのオープンプロジェクト(OpenClawのこと)は、わずか数週間で歴史上最も人気のあるものになった」と語る。

「フィジカルAI」とシミュレーションが回す進化のフライホイール

 この自律的に推論するAIの力は、デジタル空間にとどまらない。現実世界で動く「フィジカルAI」にも革命を起こすという。「AIが自ら状況を推論できるようになれば、自動運転車は(学習のために)何十億マイルも走る必要がなくなる。ロボット工学は今後数年で超高速で進化し、フィジカルAIが信じられないほど加速するのを目にするはず」だという。

 さらに、ゲームなどの仮想空間データがAIの学習に役立つかという問いに対し、フアン氏は「ゲーム内の動きは必ずしも物理法則に従っていないため注意が必要だ」と前置きしつつ、自社のOmniverseやIsaacといった物理ベースの3Dシミュレーションの重要性を強調。現実の観測データとシミュレーションを掛け合わせることで、AIが未来の状況を想像して新たなデータを自ら生み出す“フライホイール”がすでに回り始めているとする。ロボットがカオスな現実環境で物理法則や安全性を理解して動く「フィジカルAI」への移行は着実に進んでいる。

コンピューターは「データ入力機」から「トークン製造工場」へ

 AIが普及した未来において、ハードウェアの役割はどう変わるのか。フアン氏は、人々が長年抱いてきた「コンピューターの常識」が根本から覆ると予言する。

 同氏は「世界はまだ、コンピューターは主にデータ入力とデータ検索のためのものだという古い概念から抜け出せていない。人間がキーボードを叩くこと。それはコンピューターの古い使い方だ」とした上で、「将来、コンピューターは製造業者、つまり“トークン製造工場”になる。推論のためのトークン製造はまだ始まったばかりで、これから何兆ドルものキャパシティが必要になる」と語った。

 AIが24時間365日、絶え間なく文章や画像、プログラム(トークン)を製造し続ける。そのために、NVIDIAは従来の概念にとらわれない新しい設計のCPU(Veraなど)を開発し、AIファクトリーが1秒たりとも休むことなく稼働できる仕組みを構築しているのだという。

 10年後のNVIDIAの姿を問われると、「7万5000人の従業員(とその家族)とともに、750万のAIエージェントが働く巨大なAIファクトリーになっているだろう」と回答。AI主導の極限の協調設計が進む未来像を、ユーモアを交えながら力強く語った。

AIの未来と「白血球」としての役割

 強力なAI技術が社会に与える影響について、「AIが介入すべきではない領域はあるか?」という倫理的な問いに対して、フアン氏は「AIは法律を破るべきではないし、持っていない機能を提供すると約束すべきではない。たとえば、もしクルマが時速65マイルで安全に運転できるというなら、時速50マイルで爆発しないでほしいだろう。これらは人類が長い時間をかけて学んできた、ごく常識的なことだ」と冷静に答えた。

 その上で、「SF映画のようなAIのビジョンでみんなを怖がらせるのは、私の好みからすると少し傲慢で、思い上がりが過ぎる気がする。警告することと、怖がらせることは全く別の話」と、SF映画のようなディストピアを煽る風潮に釘を刺す。

 一方で、AIの力が不可欠な分野として「サイバーセキュリティ」を挙げ、「私たちは、企業が白血球に囲まれている状態を作りたい。万が一サイバー攻撃の侵入者がいた場合、AIエージェントが白血球のように瞬時に反応し、侵入者に群がって攻撃する。自身を守るためには超高速のAIエージェントが必要となる」と語り、そうした領域にも積極的に取り組んでいく姿勢を示していた。