インタビュー
AIが攻撃してくる時代~企業が検討すべきセキュリティ戦略とは?
2026年9月18日 10:54
AnthropicのClaude Mythosがセキュリティ上の懸念から一般公開に待ったがかかり、OpenAIの開発中モデルが外部サービスに不正アクセスするなど、最先端AIがセキュリティ上の脅威、懸念事項にもなっている。
いずれもAIの能力が飛躍的に向上していることによるもので、自律的に動くAIエージェントが企業のシステムをターゲットに攻撃し始めるのも時間の問題と言える。それと同時に、社内でAIエージェントを活用することが、意図せずシステムに対する攻撃やデータ漏洩につながる可能性も否定できない。
こうした状況において企業はどのように対処するべきなのか。新たな脅威に対抗するために必要な備えについて、日本マイクロソフトの岡嵜氏に聞いた。
組織内で動いているシャドーAIも把握・管理できるように
――企業のシステムやデータを狙った攻撃に、AIが用いられる可能性が高まってきました。マイクロソフトとしては、AIとセキュリティの関係についてどのように捉えていますか。
岡嵜氏:たしかにセキュリティ攻撃はAIの進化によって脅威となってきていることの1つです。AIを使ってよりスピーディーに、より巧妙に、かつ大量に仕掛けてくるようになっているのが、以前との大きな違いだと思っています。
高度な専門知識をもつ一部の人間しかできなかったことがAIによって可能になり、しかもそのスピードは格段にアップしている。今までなら、例えば脆弱性が発見された後、その穴を狙う攻撃が実際に出現するまでは時間がかかっていました。しかし、今や数十分でプログラムを作成し攻撃することもできてしまいます。
身近なところで言うと、フィッシングメールは以前は日本語が怪しかったりして、よく見れば気付くことができました。最近は文面だけ見れば偽物なのか、本物なのか判断しにくいメールもあって、送信元の情報までしっかり確認する必要があります。AIによって攻撃側のやり口もどんどん巧妙になってきているわけです。
また、従業員が企業のシステムにアクセスするのと同じように、自律型AIエージェントが勝手にシステムにアクセスしていろいろなデータを読み取ってしまう、というようなことも理論上は可能になってきています。それに対してどう対処していくかも課題です。
従業員が勝手にAIツールを使っていても管理側が関知しきれない、いわゆる「シャドーAI」が増えているのも懸念点です。企業側としてはガバナンスを効かせたくても、使う従業員側は便利なAIをどんどん使いたいので難しいところです。企業の大事なデータを外部のAIに渡してしまう前に、そのリスクをどうコントロールすべきか考える必要が出てきています。
――シャドーAIの話がありましたが、組織の中で使われるAIエージェントが増えていったとき、企業としては何を意識しなければならないと思いますか。
岡嵜氏:人がデータやシステムにアクセスすることと、AIエージェントがデータやシステムにアクセスすることは、アクセス元こそ違えど基本的には同じことだと考えています。今後は人とAIエージェントが連携したり、AIエージェント同士で連携したり、という形になってくるので、企業側ではそれらを積極的にマネジメントし、コントロールできる仕組み作りが大切だと思います。
たとえば組織の中に今どんなエージェントが存在しているのか、それらエージェントがどんなシステムにアクセスできるのか、管理する仕組みを作るのに我々の製品ではMicrosoft Agent 365が貢献します。
それとともに、ID管理のMicrosoft Entra ID、エンドポイントセキュリティのMicrosoft Defender、データガバナンスのMicrosoft Purviewなどもあります。これら既存の基盤を活用することによって企業の目的を最速で達成するためのサポートが可能、というのも大きなところだと思います。
――Agent 365では他社のAIエージェントも含めて管理できるのでしょうか。
岡嵜氏:もちろんです。企業がどれか1つのAIエージェントだけに絞ることは少ないだろうと思っていますし、用途や場面に応じて最適なAIソリューション、AIエージェントを利用したくなるものだと思います。それを適切にコントロールするのがAgent 365の役割です。
Agent 365自体は他社の代表的なAIプラットフォーム上のエージェントの管理にも公開プレビューとして対応していますが、それ以外の企業が独自に開発したAIエージェントなどもAgent 365 SDKに則って作成すれば、同じように管理できるようにしています。Agent 365 SDKを実装した大手ISVパートナーさまによるソリューションも、すでに多くのパートナーさまに広がっています。
AIからの攻撃に対しては、AIで対抗する
――AIによるセキュリティ攻撃に対して、マイクロソフトではどのようなソリューションを提供していますか。
岡嵜氏:まず言えることは、問題を見つけるだけでなく、その問題に対していかに早く対応し企業側のリスクを低減していけるか、さらには対処する仕組みをいかにスピーディに作れるか、が大事だということです。
マイクロソフトでは、そこに向けていくつかのソリューションを提案しています。1つは「Project Perception」です。これは、AIを利用したと考えられるような巧妙かつ高度化された攻撃に対して、こちら側もAIエージェントを活用して守る、というものになります。
大きくは3つのレッド、ブルー、グリーンという3つの役割ごとのエージェントで構成されています。1つ目のレッドは、現在の企業システムにどのようなリスクがあるのかを調査し、実際に攻撃をシミュレートして確かめるエージェントです。
ブルーは攻撃を検知して、企業にとって重大なリスクになり得るのか評価したり、脅威への適切な対処に向けたレポート作成、仕組みの強化や設定の提案などを行ないます。もちろん実際の攻撃に対しても同様に機能します。
グリーンは、レッドやブルーが見つけて調査した内容をもとに、改善方法を具体的に生成するなどして根本解決するエージェントです。こうした複数のエージェントによるセキュリティ対処のサイクルを継続的に実行することで、安全を保てるソリューションになっています。
――具体的にはどのように動くのでしょう。
岡嵜氏:Project Perceptionと連携する仕組みとして、コードの解析や脆弱性を検証するMDASH(Microsoft Security Multi-model Agentic Scanning Harness)があり、現在プレビューとして提供しています。MDASHがシステムのコードに脆弱性を見つけると、GitHubとの連携により、開発者がワークフローの中で早期に修正できるよう支援します。
単一のモデルではなく、複数の異なるモデルを使っているのもポイントです。簡単に言うと、Aというモデルが問題を見つけたときに、Bのモデルはそれが本当に対処すべき問題なのか検証する、といったような分担をして分析精度を高めています。
MDASHは、100以上の専門AIエージェントをオーケストレーションし、脆弱性の発見、検証、重複排除、実証などを行ないます。こうした仕組みにより、CyberGymというセキュリティベンチマークで96.55%のスコアを記録しました。
ちなみにMDASHに関連したところでは、最近「MAI-Cyber-1-Flash」を発表しました。「MAI」はマイクロソフトが自社開発するAIモデル群を指し、その中でこの「MAI-Cyber-1-Flash」は、サイバーセキュリティに特化したモデルとなっています。最新のMDASHではこのMAI-Cyber-1-Flashが最大9割の処理を担うよう設計されているのですが、高性能なだけでなく軽量でコスト効率にも優れているのが特徴です。
――実際のところ、企業においてAI絡みのセキュリティに対する意識に変化は見られますか。
岡嵜氏:企業としてはAI活用を推進していくことが不可欠なフェーズになってきているわけですが、そのなかでもいかに企業ワイド(会社全体)で活用するかというところに注目が集まっています。企業がもつデータとAIをいかに組み合わせて、いかに安心安全に、企業ワイドに活用していけるか。そうしたところでセキュリティが大きな意味を持ち始めています。
2~3年前はAIを使って本当に大丈夫なの? みたいな感覚でしたが、今や我々のCopilotは日本の多数の大手企業に導入されるに至りました。一部のユーザーというよりは全社的に活用するケースが増えてきて、安全に使える仕組みを整えることがすごく重要になっているんですね。
ただ、今のところはそれに応じたセキュリティ基盤を整備できている企業さまはまだ一部で、AI利用が先行して整備が追いついていないパターンが大半という印象です。これから1年ほどは、AI導入のスピードに対してセキュリティの仕組みをいかに整えていくか、というところがホットなトピックになってくるのではないでしょうか。
AIセキュリティに向け、セキュリティ担当者が意識すべきこと
――いろいろな攻撃手法があると思いますが、いずれにしろAIエージェントが高速に物量攻撃し始めると人間では太刀打ちできなさそうです。そこはどのように対処していけるでしょうか。
岡嵜氏:ランサムウェアを例にとると、実際にシステムに侵入して攻撃されるまで5分、みたいなレベルになってきています。そのスピードに人間が対応するのは不可能に近いですよね。
仮に攻撃経路やパターンが1000通りあったとして、攻撃側はそのうちの一点突破でいいのに、防御側は全部に対して網を張っておかないといけない、というアンバランスさもあります。攻撃側のスピードが上がり、防御側は見ないといけない情報量が膨大になる。だからこそAIを活用して適切に対処する、というのは必須です。
ただし、インシデントに対処するのに重大なシステム操作が必要になるときは、AIに全て任せるのではなく人の判断を入れるのを基本にしたいですよね。仮に問題のあるシステムをネットワーク的に切り離さなければいけないとき、一部の機能が利用できなくなるのを許容するかどうか。そういうときはAIが人に判断を求める、という設計にすべきだと思います。
――企業のシステムやセキュリティに関わる担当者は、考え方を切り替えていく必要もありそうです。
岡嵜氏:そうですね。求められるスキルは今までとは変わってくると思います。プログラミングもそうですよね。これまでのプログラム開発ではコードを書けることが大事でしたが、今後はできあがった物に対して適切に評価し、意思決定する能力が求められます。そうした部分でのベーススキルをどこまで高めていけるかが鍵になってくるでしょう。
でも、いきなりエージェンティックなセキュリティ運用にパッと切り替える、というのは難しいので、そこに対しては我々がコンサルティングサービスを提供しています。現在のセキュリティオペレーションについてアセスメントを実施し、どこに課題があり、そこにAIを適用する際にはどんなスキルや体制が必要で、何を変えていけば効果があるのか、というところを一緒に伴走しながら支援させていただいています。
――中小企業だとそもそもシステム部門やセキュリティ部門がない、知識のある人材も多くない、という状況にあって、AIセキュリティに投資するのは容易ではないようにも思います。
岡嵜氏:セキュリティエキスパートがいないとしても、むしろそこはAIがサポートすることで、重要な意思決定の部分は人間が判断を下しながらセキュリティ対応を強化していけると思っています。
中小企業ほどビジネス面はシビアに効果を見るところもありますし、できるだけセキュリティ対応の負荷を下げたいというときにも、マイクロソフトのソリューションにはしっかりベストプラクティスがありますので、活用していただきたいですね。
とはいえ、中小企業を含む幅広い方々をより低コストで支援できるように、AIネイティブなセキュリティオペレーションの仕組みを今後も発展させていきたいと思っています。
――金融や行政のような一般の企業とは異なる制約をもつ組織に対しても、基本的には1つのソリューションで対応していけるのでしょうか。
岡嵜氏:対応できると思っています。規制業界にいる方々や、社会インフラ系のセキュリティを重視される企業さまは、すでに我々の既存のセキュリティソリューションを導入しているケースも多いですね。もともとセキュリティレベルが高いので、その意味では新たなAIによるセキュリティ、オペレーションで一段と高度化させていくのは難しくないと思っています。
また、むしろそういったコンフィデンシャルレベルが高いところは、マイクロソフトがさらに支援できる部分でもあると考えています。プロセス内で暗号化してエンドツーエンドでデータの機密性を担保する技術もありますし、データ主権の観点から地政学的なリスクを排除したソブリンクラウド的なアプローチにも力を入れています。
企業の大事なデータを守るため段階的な対応を
――AIセキュリティに向けたいろいろなソリューションがある中で、企業はどのように進めるのがいいのでしょうか。ステップアップの流れみたいなものがあれば教えてください。
岡嵜氏:我々としては3段階か4段階でお話しさせてもらうことが多いですね。最初の段階は「アセスメント」で、守らなければいけない情報が何で、現状はどうなっていて、というのを確認したうえで優先順位をつけていく。いきなり全てをパーフェクトな形にしようとするのは混乱を招きますので。
その次は「守る」です。Back to the basics(初心に帰る)ということでもあります。システムに関して言えば可能な限り外部からのアクセスを最小化すること。ネットワークセグメントを見直して、不必要に社外から触れられるようなルートを残さないことが大事です。さらには適切なアクセス権を設定すること、きちんとログを取ること、異常を検知して気付ける仕組みを作ることも重要です。
これらはAI云々とは関係なしに以前から必要だった活動ではありますが、今後は社内にどんなAIエージェントがあるかを把握して、AIエージェントのアクセス範囲を最小限にすることも考えなければいけません。AIエージェントの振る舞いに不正があれば停止できるような仕組みまで作れればいいですよね。
そうした仕組みが企業ワイドに連携して動く状況を作るのが3段階目となります。AIを既存のデータやシステムにつなげて管理できる状態にすることですが、理想的には先ほどお話ししたようなProject Perceptionのレッド、ブルー、グリーンのエージェントのように、AIが脅威を検知して自律的に動き、単に防御するだけでなく検証や改善を図っていくところまで自動化できると素晴らしいですよね。
大事なのは、最適なリスクコントロールを行なって、企業がセキュアな形でAI導入を安心安全かつスピーディに進めていけることですから、そこはぜひ我々も一緒に実現させていただければと思っています。
――ありがとうございました。








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