ニュース

マンガ編集の写植指定を自動化する「写植指定AIツール」

「写植指定AIツール」の使用シーン。写植指定AI画面左の原稿から「吹き出しの形状」「記号としての文字データ」をAIが解析し、右の原稿の吹き出し内にフォントや文字サイズを提案 (C)Miyuki Tonogaya/SQUARE ENIX

 Mantraは、スクウェア・エニックスと共同で、マンガ編集における「写植指定」工程を自動化するAI技術を開発した。βテストを終了し、現在スクウェア・エニックス社内で段階的な導入を開始している。

 同プロジェクトは、2024年のスクウェア・エニックス・ホールディングスからMantraへの出資を機に築かれた連携のもと実現。Mantraがマンガ翻訳ツール「Mantra Engine」の開発を通じて培ってきた画像認識・スタイル推定技術を、日本語マンガの編集工程に応用するもの。まずスクウェア・エニックス社内で検証と改善を重ね、利便性向上と業務効率化の達成に取り組み、将来的にはマンガ業界全体へ向けた製品の提供を進めていくとしている。

「写植指定」とは─なぜ年間3,000時間もかかるのか

 写植指定とは、マンガのセリフについて、フォントの種類・大きさ・スタイル・配置などを一つひとつ指定していく作業。たとえば、同じキャラクターのセリフでも、日常会話、叫び声、心の中のつぶやき、ナレーションでは、それぞれ異なるフォントやスタイルが使い分けられ、適切なフォントの適用は作品の演出や読者の没入感に直結する重要な工程であり、1話あたり数十〜数百のセリフすべてに対して、編集者が手作業で行なっている。

 スクウェア・エニックスの編集部では、年間3,000時間以上がこの作業に費やされており、マンガの刊行点数が増加する中、写植指定の効率化は現場の切実な課題となっていた。

専用スケールを使った写植指定の様子
(C)Miyuki Tonogaya/SQUARE ENIX

共同開発の概要

 今回の共同開発では、Mantraがこれまでマンガ翻訳システム「Mantra Engine」の開発で培ったマンガ画像の解析技術およびスタイル推定技術を応用し、写植指定に特化した「写植指定AIツール」を開発。写植指定AIツールの特徴は、以下の通り。

(1)吹き出し・セリフの構造解析
 原稿に描かれた吹き出しの形状・セリフのテキスト・文字数・行数などを自動で解析。

(2)吹き出しに合わせた文字組み自動推定
 吹きだしの大きさに合わせた適切な級数(文字サイズ)を推定し、フォントサイズ、配置位置などを自動提案。その際、通常のセリフ、心の声、叫び、ナレーションなどで使い分けられる吹き出しの形状も考慮し、場面に適したフォントの種類・スタイルを推定。

(3)編集者のニーズに応えるカスタマイズ設計
 スクウェア・エニックス編集部でヒアリングを行ない、直感的なUIや「写植プレビュー」など、実際に写植指定を行う編集者が使いやすい機能を実現。

編集者によるβテストでの評価

 スクウェア・エニックス編集部内で実施したβテスト(対象1,516ページ)では、総合満足度が73%と肯定的な評価を獲得し、回答者全員が今後の継続利用に前向きな姿勢を示した。操作性については60%が「使いやすい」と回答し、初見でも直感的に利用可能なUIとして評価されている。一方、AI解析精度や処理速度については改善の余地があり、今後の開発での課題となっている。

 テストに参加した編集者からは、「ほかの業務を行ないながら写植指定も進められる」「手書きでフォント指定を書き込む手間が省け、作業が非常に楽になった」といった評価を得ている。こうしたテストで得られたフィードバックをもとに、今後はフォントサイズの推定精度や処理速度等のさらなる向上を図り、継続的な改良を進めていくとしている。

今後の展望

 すでに、βテスト運用は完了しており、段階的に導入を開始している。今後は、スクウェア・エニックス社内での検証と改善を重ね、利便性向上に取り組むとともに、他企業にも利用されるよう製品化を進めていくという。

両社コメント

スクウェア・エニックス 執行役員 出版事業本部 事業本部長 松浦克義
「本ツールは、編集現場の最前線にいる編集者たちのアイデアに加え、当社がデジタルエンタテインメント領域で培ってきた10年以上にわたるAIの知見、そしてMantra様の技術を融合し、編集者の負荷を最適化するために開発を行ないました。我々の目的は、単なる効率化ではなく、AIが定型的な作業を担うことで、作家様の創作活動をサポートするという編集者本来の業務により集中出来る環境を整えることです。編集者のアイデアから生まれたこの取り組みが、出版業界における新たなモデルケースとなり、より多くの作品を読者の皆様へお届けする取り組みとなるよう邁進してまいります」と語った。

Mantra 代表取締役 石渡祥之佑
「創業以来、Mantraはマンガ翻訳を効率化するAI技術を開発してまいりました。その過程で培った要素技術が、今度はマンガ制作に携わる編集者のお役にも立てる機会を得たこと、心から嬉しく思います。共に開発を進めてくださったスクウェア・エニックスの皆様に感謝申し上げます。今後もMantra一同、より多くの素晴らしい作品が、より多くのファンに届くことを支える技術を作ってまいります」としている。