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天才CEO率いる「Decart.ai」、フィジカルAIを支える「ワールドモデル」をGoogle Cloud Nextでデモ

Decart.ai 創業者 兼 CEO ディアン・リッツエンドル氏

 スタートアップ企業「Decart.ai」が今、大きな注目を集めている。Decart.aiはワールドモデルと呼ばれる物理演算を行なうAIモデルを開発している企業で、2024年に創業し、わずか2年でNVIDIA、AWS、Google Cloudのような大手AI企業から注目を集める存在にまで成長している。

 Decart.aiはAlphabet傘下のクラウドサービス事業者Google Cloudが開催した「Google Cloud Next '26」で講演を行ない、Google Cloudが発表した新しいAI推論向けの半導体「TPU 8i」で、同社のワールドモデルを動かし、低遅延で動画内の人の服をリアルタイムに着せ替えしたりというデモを行なった。

フィジカルAI、デジタルツインを支えるAIモデルとして注目を集めている「ワールドモデル」

 今AI界隈で最も注目され、成長が期待されているAIモデルがある。それがワールドモデルだ。ワールドモデルとは何かというと、実世界の物理的な動きを瞬時に読み取り、それを元に何かの処理を行なうために利用されるAIモデルだ。

 例えば、そのワールドモデルがロボットに搭載されていれば、ロボットがコンピュータビジョン(Computer Vision:画像認識)の機能を利用して認識した画像から、ワールドモデルがそこにある物体の座標などを即時に判定し、物体の形状などを認識して、それが障害物だと判断すれば、ロボットに搭載されたLLM(Large Language Model)がロボットの動作を決定し、その障害物を避ける動作をロボットの歩行装置などに指示をする。

 こうしたロボットのような実際に物理世界でAIを動かすことを「フィジカルAI」と呼んでおり、現在大きな注目を集めているAI分野の1つだが、ワールドモデルはそうしたフィジカルAIを支える技術のなのだ。

 その逆に、実世界にはない物体を、バーチャルの世界に登場させることも可能。例えば動画の中に、ロボットを登場させたいという場合、ワールドモデルがそのロボットの物理的な位置を計算し、動画の中にロボットを置いて、動画の中の実体(例えば動いている人間)に連動してロボットを動かす、そうしたことも可能だ。こうしたことを、デジタルツインと呼び、製品開発や工場稼働の前にバーチャルでシミュレーションすることで、現実世界で安定して製品を動かすなどの用途に利用されている。

仏ダッソー・システムズの3DEXPERIENCE World 2026でゲスト講演するNVIDIA CEO ジェンスン・フアン氏(左)とダッソー・システムズ CEO パスカル・ダロズ氏(右)
2Dの寸法データを元にしてワールドモデルが3Dモデルを作成している様子

 こうしたワールドモデルは大きな注目を集めている。例えば、2月に仏ダッソー・システムズが米国テキサス州ヒューストンで開催したイベント「3DEXPERIENCE World 2026」では、同社が開発したワールドモデルが発表され、同社の3D CADソフトウエアとなる「SOLIDWORKS」に実装されることが明らかにされている。ダッソー・システムズのワールドモデルでは、2Dの設計図の数値から3DのモデルをAIが自動的に作り出し、3D CADソフトウエアに取り込む様子などがデモされた。これを応用すると、2Dでしか残されていない設計図を、3D CADに自動で取り込み、もはや設計図としてしか残っていない製品を復刻する……そうしたことが可能になる。

ライブ動画で人が着ている服をリアルタイムに着替えさせたり、人間の動きをゲームに反映したりなどが可能に

Decart.aiのワールドモデルのデモ、実際に会場でライブ撮影されたストリーミング映像をワールドモデルがリッツエンドル氏をロボットにしている

 今回Decart.aiがGoogle Cloud Next '26で行なったデモも非常に印象的なものだった。リアルタイムの動画に登場する人物の服をワールドモデルが着せ替えを行なったデモはその1つだ。

 リアルタイムの動画に登場したDecart.ai創業者 兼 CEOのディアン・リッツエンドル氏が着ている服が、レーシングスーツになったり、蝶ネクタイのスーツになったり、はたまたリッツエンドル氏がロボットになったりということが、ほぼリアルタイムにできていた(実際にはネットワーク由来の遅れがあるので、ほぼ)。

Tシャツが蝶ネクタイのスーツになったり、レーシングスーツになったり、ロボットになったりする

 こうした機能を利用すると、例えばECサイトで洋服の3Dデータなどが提供されている、あるいは画像データがあれば、それをPCのカメラで撮影している自分の映像に重ね合わせて表示する、そういう使い方が可能になる。それにより、実際に実店舗に試着にいかなくても、自分で自分のイメージを掴むことが可能になる。あるいは、ゲームの中に自分を登場させて、実際の自分の動きとキャラクターを連動させて動かすゲームを作る、そうした新しい使い方が可能になるのだ。また、よりリアルな使い方としては、ロボットの動作や自動運転のシミュレーションにワールドモデルを使うということも考えられる。

ECサイト向けのソリューションでは、着ている服をECサイトで販売されている服に置きかえて着ているイメージを自分で確認できる

 こうしたワールドモデルを開発しているDecart.aiは注目を集めている。創業者 兼 CEOのリッツエンドル氏は、イスラエルの出身。イスラエル工科大学(米国で言えばマサチューセツ工科大学、日本で言えば東京科学大学に相当)のPh.D(博士号)を、同大史上最年少となる23歳にして獲得した天才として知られている。

 そして2024年にDecart.aiを創業し、NVIDIAやAWSといった大手AI企業から注目を集める存在になっているのだ。Decart.aiは「Lucy」、「Oasis」という2種類のワールドモデルを開発しており、前者がビデオストリーミングにAIによる合成を行なうモデル、後者がシミュレーションなどにも使えるワールドモデルとなる。

「Lucy」、「Oasis」というワールドモデルを提供する

GoogleやNVIDIAなどが提供開始する低遅延なAI半導体の登場で、ワールドモデルの普及が進む

Google CloudのTPU 8i

 今回Decart.aiは、Google Cloud Next '26の分科会(ブレイクアウトセッション)の1つである「The latest from Google's TPU roadmap: Architecting TPU 8t and TPU 8i for frontier AI」に参加した。

 このセッションのタイトルになっているTPUというのは、Tensor Processing Unitの略称で、NVIDIAのGPUのように、AIのアプリケーションが演算する時に利用する半導体製品になる。従来のAI半導体は、NVIDIA GPUがそうだったように、学習(AIモデルがデータを読み込んでより賢くなっていくプロセスのこと)に特化していた。しかし、今は、推論(AIモデルがデータを処理して音声認識やAIチャットボットなどのサービスを提供する処理)が必要とする処理能力が増大しており、NVIDIAやその競合はいずれも推論に特化したような半導体製品の投入を急いでいる。3月に開催されたNVIDIA GTCで発表されたGroq LPUもそうした製品の1つだ。

 今回Google Cloudが発表したTPU 8iもそうした推論に特化した新しいAI半導体だ。Google CloudはこのTPU 8iで、処理の遅延(英語ではレイテンシーと呼んでいる)をできるだけ少なくする仕組みを採用している(NVIDIAのGroq LPUもそうしたコンセプトで設計されている)。それにより、Decart.aiが提供するワールドモデルのような、遅延ができるだけ少ない必要があるアプリケーションで低遅延を実現することが可能になる。実際、今回のデモでもまだ遅延は若干あったが、今後はそうした遅延が、ネットワークの遅延も含めて小さくしていくことを目指すことになる。

低遅延の推論が普及することでワールドモデルやフィジカルAIが本格的になる

 Decart.aiのリッツエンドルCEOは「2026年は低遅延の推論が普及することでワールドモデルやそれに基づいたフィジカルAIが本格的に普及する年になる」と述べ、ワールドモデルが今年最も注目してよいAI技術の1つだとアピールした。